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『ラストワンマイル』 - 運送会社の真価・存在意義

「運送会社を扱った作品」の第二弾は、楡周平『ラストワンマイル』(新潮社、2006年)です。巨大な郵政と、肥大化するIT企業との戦いを強いられた暁星運輸は、いかなる方策でその戦いに打ち勝とうとするのでしょうか? 武器となるのは、「物流業がすべての産業の生命線を握っている、そして、ラストワンマイルを握っている者こそが絶対的な力を発揮できる」という真実。運送会社の真価・存在意義が再確認できるでしょう! 

 

[おもしろさ] 「新しい飯の種」をどのように作り出すのか? 

運送会社とは、依頼主から依頼されたモノを送り先に届けるというサービスを行う会社です。いわば「荷物の運び屋」なのです。業界のサービスだって、すでに行き着くところまできてしまっている感があります。したがって、そこに留まっている限り、じり貧に陥ってしまう可能性があるのです。では、運送会社であればこそ実現できる「新しい飯の種」をどのように作り出せばよいのでしょうか? 本書の魅力は、そうした目標を実現させていくプロセスの渦中で生じる「生みの苦しみ」の描写に集約されます。

 

[あらすじ] ネット上に出店費用無料のショッピングモールを

暁星運輸という宅配をメインとする運送会社に勤務する横沢哲夫。上司である本社営業本部広域営業部・寺島正明部長と一緒に、全国に8000店舗を展開しているコンビニチェーン「ピットイン」の本部を訪れると、20年間続いてきた独占的取り扱い契約を見直し、併売に変更することを提案されます。さらに、最大手のコンビニチェーン「エニイタイム」からも同様の申し出がなされることに。しかも、併売の相手は、価格競争力で同社を凌ぐ郵政だったのです。かりに、二つのコンビニチェーンが郵政の手に落ちるとなれば、「広域営業部が抱えるコンビニとのビジネスの実に60パーセントがなくなってしまう」ことになります。加えて、ネット上でショッピングモールを立ち上げ、いまではネット証券や金融などにも活動を広げているIT企業「蚤の市」からは、出店企業と同様に、「売り上げ(およそ290億円)の3%(8億7000万円)を収めていただきたい」という申し出がなされたのです。こうして、暁星運輸は存亡の危機に……。ところが、「かつて経験したこともない興奮と自信」を全身にみなぎらせて、横沢が寺島に言います。「わが社が独自にネット上にショッピングモールを開設するんです。出店費用を無料にすればいいのです」と。