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『リベンジ・ホテル』 - 地域経済の「鏡」としてのコミュニティホテル

「ホテルを扱った作品」の第二弾は、危機に瀕するコミュニティホテルを描写した江上剛『リベンジ・ホテル』(講談社文庫、2012年)。東京郊外にあるコミュニティホテルの苦境と、再生に向けての諸方策がメインに扱われています。また、ホテルに勤務する人の身だしなみや仕事、ホテルの組織・仕組みがよくわかる作品でもあります。本当のサービスとはなにか、心からのおもてなしとはなにかといった点にも言及されています。ホテルが抱えている課題が、新入社員を軸にした社員たちの尽力によって解決されていく事例になります。

 

[おもしろさ] 再生の決め手は「オンリーワン作戦」! 

舞台となるのは、東京の郊外、電車で1時間ほどのH市の駅前で、30年ほどの歴史を有するホテル・ビクトリアパレス。同ホテルは、かつて木材の集散地として栄えた町にあり、地元のコミュニティホテルとして愛されてきました。ところが、H市の衰退とともに業績も悪化。本書の特色は、「オンリーワン作戦」と銘打ったホテル再生プランが具体的にどのように始まり、同ホテルをいかに変えていったのかをフォローできる点にあります。再生プランは、シャンプー、コンディショナー、ボディソープをポンプ式に変更することから始まり、オンリーワン委員会の発足、喫茶店のオーナーによるコーヒー教室の開催、ランチ女子会の実施、「H市を元気にしよう! 地元有名人によるカルチャースクール・デザート食べ放題」などへと進んでいきます。

 

[あらすじ] 「潰してショッピングセンターにでも変えたほうが」

就職氷河期、大学卒業目前になっても就職先が決まらない花森心平。自信がない。根性もない。そんな心平が入社できたのは、支配人も逃げ出す破たん寸前の老舗ホテルでした。オーナーは、H市の財閥でもある神崎惣太郎。やがて、その孫娘・神崎希が、新しい支配人に就任します。ところが、ミズナミ銀行H支店からは、融資している10億円を1年以内に返済してほしいという催促が。「早く潰してショッピングセンターにでも変えたほうが地元のためだっつうの」。そのような状況下にあって、「私が支配人を援けて立て直す!」と、銀行員に啖呵を切った心平。こうして、「オンリーワン作戦」と銘打ったホテル再生プランが始動します。