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『ハゲタカ2.5 ハーディ』 - 外資の傘下に入ったミカドホテルの奪還劇

「ホテルを扱った作品」の第二弾は、日本を代表する老舗クラシックホテルを舞台にした真山仁『ハゲタカ2.5 ハーディ』(講談社文庫、2017年)。経営難に陥り、世界的なリゾートグループ「リゾルテ・ドゥ・ビーナス」傘下に入っていた日光ミカドホテルの創業家の長女・松平貴子。ミカドホテルの苦境と再生に向けての道筋、奪還に奔走する彼女の死闘が、ダイナミックに描かれています。鷲津政彦を主人公にした「ハゲタカシリーズ」の外伝。ハイディとは、「寒くてもじっと我慢して耐えている。でもその実、中はたぎるほど燃えさかっている」(156-57頁)と表現されるように、「我慢強さ」とか頑固さといった意味で、この本の主人公・松平貴子のキャラクターを示しています。ホテルが抱える課題を、創業家につながる経営者が解決していく事例に当たります。

 

[おもしろさ] 日光に秘められた「侘び寂び」の魅力

本書のおもしろさは、ミカドの奪還と再生をめざす松平貴子がきわめて複雑な陰謀・抗争の渦中に翻弄され、何度も阻まれ、あきらめかけるのですが、初志貫徹しようと懸命に動く姿容を追跡しているところにあります。また、香港屈指の大財閥の総帥だけではなく、中国のスパイマスターとして、アジアにおける諜報機関を統轄するという将陽明と、日本の大都会や東京ディズニーランドではなく、なんといっても日光・中禅寺湖・戦場ヶ原に興味を示す、世界的リゾーと王のフィリップ・ビーナスといった人物の描写にも興味がそそられます。ちなみに、「ヨーロッパの上流階級が日本に寄せる興味とは…東洋的な神秘的空間、自然との共生から生まれる調和、そして何よりも“侘び寂び”の世界」であるようです。

 

[あらすじ] 複雑に交差する謀略・陰謀の渦の中で

「リゾルテ・ドゥ・ビーナス」傘下にある「ミカドホテルグループ」のCRO(最高再生担当責任者)を務める松平貴子。リゾルテ・ドゥ・ビーナスグループ会長であるフィリップからは、同グループの執行委員になって目標値を達成すれば、ミカドを返すと約束されます。ところが、同グループでは、アンリ・ドヌーブ社長、ミニカ・バーンスタイン副社長、フィリップの妻・マリーヌ・ビーナスなどの間で、利害の対立が生じ、内紛が発生。状況が混とんとしていきます。他方、謎の多い香港の大富豪・将陽明からも、ミカドの救済策が提示。しかし、将の周辺でも、彼の娘・美麗、彼の孫である賀一華などによる複雑な謀略・抗争が展開されていきます。そうした陰謀が渦巻くなか、貴子は、自らの運命をどのように切り開いていくのでしょうか? 

 

 

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