経済小説イチケンブログ

経済小説案内人が切り開く経済小説の世界

『小説 総会屋』 - 総会屋の実態・やり口・ノウハウ! 

「総会屋を扱った作品」の第二弾は、三好徹『小説 総会屋』(集英社文庫、1983年)。総会屋の実態、やり口、ノウハウが見事に描かれています。1982年に、従来のような総会屋主導の株主総会を排除し、その健全性を回復することを目的として、商法が改正されたことはすでに触れましたが、その前後の変化についても言及されています。

 

[おもしろさ] 総会屋に関する情報のあれこれが凝縮

この本の魅力は、①株主総会をめぐる総会屋と総務担当者との駆け引き、②総会屋のランク、③褒め上げて恐喝同様に金をとる「ホメカツ」、「総会顧問」、「ワン株屋」といった総会屋用語、④総会屋の二つのタイプ(一つは、知恵を武器にしていわゆる「総会屋道」を守る戦前からの総会屋、もう一つは暴力団と組んで、暴力を武器にする総会屋)、⑤いずれの場合も、独立した一匹狼的な存在から系列化・組織化が進展しているという実態など、総会屋に関する情報が凝縮されている点にあります。また、商法改正後も、総会屋の実態はそれほど変化していないと指摘されている点も興味がそそられます。なぜならば、「法律の網をくぐりぬける人」がいて、総会を極力無難に切り抜けたいというニーズが企業サイドにある限り、彼らへの依存は続くからです。

 

[あらすじ] 総会は同じ日の同じ時間帯に集中

大手商社のひとつである三星通商の営業職から総務課の係長に異動したばかりの戸田清一。総務部次長の兼平から言われます。「これから6月末の株主総会までの間は、ほかのことは何もしなくてもいい。総会屋対策だけを考えて処理することが、われわれの仕事なんだ。わが社には、五千人もの社員がいるがね、総務部がどれほど総会のために苦心しているのか、わかっているやつは百人とはいないだろう。総会屋というのは、原則としてA級でもチンピラでも、総会に顔を出さなければ、金にはならないんだ。ことに6月30日というと、目白押しに各社の総会がある。だから連中は、掛け持ちでと歩回るんだ。たいてい10時に集中しているが、10時半のところもある。しかし、11時というのはもうないね。かれらにしてみれば、それまでの勝負なんだ。したがって、10時半をすぎても総会が終わらないと、もう回れる会場がないから、そこで腰を落ち着けてしまう。9時にしたのは、連中の便宜のためなんだ。うちの総会を9時15分までに済ませて、タクシーにのって、9時半のところに向かう。彼らも稼ぎになるから、うちの総会を早く終わらせようとする」と。かくして、9時から始まった株主総会。初めて出席した戸田は、ド肝を抜かれてしまいます。殺気だち緊張がみなぎる会場で、激しく社長を追求する鈴村と名乗る人物は、大学時代に親しくしていた島本大助によく似ていたからです。総会修了後、鈴村は、戸田に対して本名が島本であることを打ち明けます。かつて東西銀行に勤めていた頃、情け容赦なく切り捨てた銀行と、総会屋として活動していた里原に痛い目にあわされた鈴村は、仇を取るため、自ら総会屋となり、行動を開始します。