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『最後の総会屋』 - アイドル歌手を売り込んだ総会屋

「総会屋を扱った作品」の第三弾は、大下英治『最後の総会屋』(徳間文庫、1995年)。「広島グループ」と呼ばれ、女性デュエットのアイドル歌手である「ピンクレディー」を連想させる「フラワーレディー」の実質上のスポンサーでもあった総会屋が主人公。すでに紹介した『総会屋錦城』や『小説 総会屋』とはまた異なった視点から、実際の出来事を下敷きにして、総会屋と企業との関係、総会屋や株主総会の実態が描写。

 

[おもしろさ] 1982年商法改正による大打撃

この本の魅力は、①総会屋の実態(毎月会社を回って、「賛助金」と言われたおカネを集金していた小物の総会屋たちから大企業の幹事総会屋となり、千社近い企業と関係を持ち、株主総会を取り仕切っていた大物総会屋まで登場)、②株主総会の実態(総会屋たちの発言内容、会社側を攻略する戦術、幹事総会屋と野党総会屋の激しいやりとり)、③高度成長期には、現在と異なり、3月末および9月末、次に4月末と10月末と、決算を二回行う企業が多かったことや、株主総会は決算期末の2カ月後なので、5月と11月、次いで6月と12月と、年二回総会を実施する企業が多かったことなど、④1982年の商法改正によって、総会屋が受けた打撃が極めて大きかったこと(ちなみに、当時、警視庁が把握していた総会屋は、500団体、6390名であったことなどが指摘されている)などが明らかにされている点にあります。

 

[あらすじ] 総会屋・小原薫の波乱万丈

「広島グループ」と称された、輝夫・薫・則夫という小原三兄弟の活動が描かれていきます。主人公となるのは次男の小原薫。①1945年8月6日、広島への原爆投下という地獄絵図のなか、一瞬の差で死をまぬがれた薫、②「どんなワルも手を出せなかった」小原三兄弟の結束ぶり、③総会屋になる前の彼の生い立ち、④大東京印刷の株主になり、同社の総務課長からいとも簡単に2千円を受け取れたことに驚き、総会屋稼業に手を染めるようになっていった薫、⑤「総会屋にとっては、総会こそ舞台じゃ」と考えていた彼が選んだ初舞台は、昭和40年7月25日の大東京印刷の総会だったこと、⑥総会では意図的に広島弁でまくしたて型破りの発言を行ったり、35人もの部下を使い集団で攻撃したりするという薫の戦術、⑦「フラワーレディー売り出し」にかけた熱意、⑧1979年11月の恐喝容疑での逮捕、⑨81年9月の総会屋廃業宣言と経営コンサルタントへと衣替え、⑩82年の商法改正によって、総会屋が受けた打撃、⑪82年10月14日に、新商法下における総会屋壊滅作戦の目玉として、薫が恐喝容疑で逮捕される過程、⑫拘置所から刑務所生活の始まりや87年の出所後に不動産業を行うかたわらで総会屋稼業を再開する経緯など、実に興味深いエピソードたくさん盛り込まれています。