「会社のトップを扱った作品」の第五弾は、山崎将志『社長のテスト』(日本経済新聞出版社、2012年)。ベンチャー企業が火災に見舞われ、崩壊の危機に直面。対応を現場に丸投げしようとする阿部常夫社長に代わり、復旧作業を主導したのは、部長の西村健一でした。そんな折、同社を乗っ取ろうと画策する藤原基彦が西村に接近してきます……。遭遇する危機にどのように対応するのか、なにをどのように決断していくのか? それらを疑似体験することで学びや気づきを促してくれる、「小説仕立てのビジネス書」。
[おもしろさ] 三人三様の目線から浮かび上がらせる「事実」!
データ復旧サービス会社「リカバリースタジオ」で現場の責任者として働いている西村健一、同社の社長でありながら、新しい事業に関心を移しつつある阿部常夫、自動販売機のビジネスで成功しつつも、先行きに不安を感じており、リカバリースタジオをどうしても手に入れたくなった藤原基彦といった三人の目線から、火災によって大きな被害をこうむることになる事件の前後に展開される「事実」が描き出されています。本書の魅力は、一つではなく主に三つの目線を設定し、それぞれのビジネスに対する取り組み方を浮かび上がらせることによって、全体として多角的な視点から社長としての資質・条件を考察している点にあります。「こいつはもっと上に行けるっていう人間にはね、神様が修羅場を与える」という言葉が印象的です。
[あらすじ] 火災による危機への対応を主導した部長
リカバリースタジオ(2003年創業。従業員約50名)のエンジニアリング部長(現場の責任者)として勤務する西村健一。なんらかの理由で故障したPC、サーバー、USBメモリ、DVDなど、いろいろな記憶媒体に保存されているデータを元に戻すのがお仕事。社長の阿部常夫に誘われ、西村が同社に転職したのは、創業から3年経過した2006年のこと。それ以前は、大手メーカー東京通信電機のPC事業部に勤めていました。入社してから最初の3年間、仕事がおもしろく、会社もどんどん業績を伸ばしていたのですが、昨年あたりから少しずつおかしくなってきています。ある日、会社が火事に見舞われ、顧客からの預かり品が被害をこうむるという事件が起きます。かなりヤバイ状況に直面するなか、社長の阿部は逃げ腰。充分なリーダーシップが発揮できません。彼に代わって、復旧策業、顧客への対応、新しい仕事場の確保など、事故後の迅速な対応を主導したのは、西村でした。その様子を見守っていた顧客の藤原基彦(半額ドリンクの自動販売機を展開するベンチャービジネスを立ち上げて成功を収めた「立志伝中の人物」)から、西村は言われます。「君、社長をやらないか……。君の会社と同じ会社を新しく作るので」と。こうした話が最初に登場するのですが、西村の視点だけではなく、藤原や阿部といった人物の視点からも、その推移が描写されていきます。