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『CC:カーボンコピー』 - 中堅広告代理店とクライアント 

「広告会社を扱った作品」の第三弾は、幸田真音『CC:カーボンコピー』(中央公論新社、2008年)です。主人公は、業界中堅の広告代理店「ナガサワ・アド・エージェンシー」に勤める山里香純41歳。広告業界の業務内容や仕事の仕組み、代理店に広告を依頼するクライアントとの関係などがよく分かります。また、ナガサワでは、すべての社員が発信するメールに「cc:」をつけることが義務づけられており、そのことが、ストーリーの展開に大きな意味を持ってきます。

 

[おもしろさ] 本当に伝えたいことを消費者に! 

本書の特色は、広告代理店とクライアントの関係をビジネス上の思惑だけではなく、「恋愛感情」が交じりあうという設定のおもしろさにあります。また、CF(コマーシャル・フィルム=CM)のあり方に批判が加えられている点にも留意すべきです。幸田は言います。「最近のクライアントは、なにか大切なことが脱けているんだよ。代理店の側も、クリエイティヴも、それは同じだ。みんな一番大切ことを忘れている。いま流れているCFを見てごらんよ。ナンセンスなものばかりがもてはやされてさ。一番大事なメッセージも、本当に伝えるべきものも、なにも伝わっていない。いや、きちんと視聴者に届けようとする気持ちすら忘れてしまっている。みんなどこかで腰が引けているんだよ。本気で消費者と向き合おうとしない」と。

 

[あらすじ] クライアントの広報部に「元カレ」が異動

永澤みちは、「ナガサワ・アド・エージェンシー」の創業者の妻であり、同社の大黒柱でもある存在。彼女の夢は、毎年一度発表される主要広告代理店売上高ランキングで20位台に入ること。彼女の目にかなった山里香純は、一人息子で、同社の経営企画部部長の永澤一憲と結婚するように仕向けられます。一憲の方も、部下の山里香純の「cc:」で発信される自分へのメールを見ているうちに、いつの間にか冷静でいられなくなってしまいます。ときには、嫉妬さえ感じていたのです。結婚生活は6年半続きますが、3年前に離婚。41歳になっていた山里香純は、担当する極東生命広報部広報課に課長代理として広崎研吾(34歳)が異動してきたことを知ります。かつて研吾と肉体関係を持っていた香純は、広告の発注をナガサワにするという条件で、本来ならば研吾が考えるべき社内プロジェクトでのプレゼンのコンテンツをすべておぜん立てすることに。ところが……。