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『油断!』 - 「300万人の生命と全国民財産の7割が失われる」

自動車、飛行機、船などを動かすエネルギーとしてだけではなく、プラスチック・ペットボトル・ビニールといった日用品や、化学繊維による衣料の原料としても広く使われている石油。石油の獲得をめぐる争いは常に熾烈で、現代史を彩るメインテーマのひとつになっています。再生エネルギーに対する注目度が非常に高くなっている昨今ですが、現代文明の石油依存は、依然として非常に大きいと言わざるを得ません。今回は、石油を扱った作品を三つ紹介します。

「石油を扱った作品」の第一弾は、堺屋太一『油断!』(文春文庫、1978年)です。「石油需要の99.9%を輸入に頼っている」日本。もし石油の輸入が断たれたら、いったいどのようなことになるのか? その破局的な影響に、読者は驚愕することになることでしょう。通産省のエリート官僚であった著者がこの本の原稿を書き上げたのは、ちょうど「オイルショック」が勃発した1973年のこと。人々の不安感を助長しないように、約2年間、出版を見合わせたという経緯があります。石油を題材にした小説として、真っ先に挙げられるべき作品であり、経済小説の古典的名著でもあります。

 

[おもしろさ] 納得がいく形で、「ぞっとさせられていく」

本書の特色は、中東における戦乱により、石油の輸入が減少するところからスタートし、その影響が徐々に日本人の生活を阻害、最終的には破局的な結末に導くことになるまでのプロセスをドキュメンタリータッチで描き出している点にあります。結論だけ聞くと、いったいなぜそういう事態が引き起こされるのかわからないところがあるのですが、流れに沿って丁寧に叙述されており、納得がいくことでしょう。ただし、「ぞっとさせられていく」ことになるのですが! 

 

[あらすじ] 「身の回り政治」から脱却するとき

通商産業省エネルギー庁の石油第一課課長補佐を務めている小宮幸治34歳。日本経済は順調。大きな問題が顕在化していたわけではありません。あえて言えば、平均消費量の65日分くらいしかない石油備蓄の拡充という課題がありました。ところが、「当面は身近な問題のみを重要視する『身の回り政治』に終始してきた」戦後30年、通産省も本腰を入れて備蓄を拡充するという姿勢ではありませんでした。また、巨額の資金を喰うばかりの石油備蓄には、石油業界もきわめて消極的だったのです。ある日、小宮は、上司に当たる寺本鉄太郎課長から突然、「君、石油が入って来なくなったら、日本はどうなると思う」と尋ねられます。「さあ……大変でしょうね」と、ただにやりとするしかなかった小宮。ところが、小宮は、寺本から「油滅調査」のメンバーに加わることを依頼されます。それは、通産省が中心となって実施される「石油輸入大幅減少時の影響とその対策に関する調査」。日本への石油輸入が平常の3割になったことを想定して行われた調査の結果は、「200日間に、300万人の生命と全国民財産の7割が失われる」という、まさに驚愕すべき内容でした。やがて、油減調査の報告が実際に役立てられる事態が発生。中東で戦争が勃発したのです……。