「移動販売を扱った作品」の第二弾は、原宏一『佳代のキッチン』(祥伝社文庫、2013年)。「いかようにも調理します!」 そのような看板を掲げ、持ち込まれた食材で料理を作る佳代の「移動調理屋」=キッチンカー物語。目的は、15年前、中学三年生のときに「家を出たきり、帰ってこなくなった」両親を探すこと。新聞記者をやっている弟の和馬からもたらされる情報と励ましに支えられながら、厨房車となる軽ワンボックスカーに乗り各地を訪れます。その後、『女神めし 佳代のキッチン2』『踊れぬ天使 佳代のキッチン3』『佳代のキッチン ラストツアー』といった続編が刊行されています。
[おもしろさ] 「食のすばらしさ・おいしさ・大切さ」を堪能
一話ごとに完結する七つの話から構成されている本書。タイトル(舞台となる地域名)を紹介しておきましょう。第1話は「キャベツの子」(東京中野区)。第2話は「ベア五郎」(横須賀)。第3話は「板前カレー」(京都)。第4話は「コシナガ」(松江)。第5話は「井戸の湯」(東京墨田区)。第6話は「四大麵」(盛岡)。最終話は「紫の花」(函館)。各地で出会う人のそれぞれの事情に合致した料理が提供されていきます。たとえおせっかいと思われても、心の中から発せざるを得ない「踏み込んだ言葉」が添えられることも。「食のすばらしさ・おいしさ・大切さ」を堪能できることでしょう。また、「大好きな料理ができる」「気軽で、人に気兼ねをすることもなし」「家賃はタダ」「いつでも家ごと移動できる」「おいしいと喜んでもらえる仕事をしていれば、どんな辛い目に遭っても捜し続けられる」……。良いこといっぱいのお仕事と向き合う佳代の「ひたむきな心」にたくさんの元気をもらうことができるかもしれませんね。「料理の作り手は、食べ手の命を預かっている」「おいしく食べて元気になってもらうために、食べ手の体にも気づかって調理する。それが作り手の良心」。佳代にはそういった信念があるからです!
[あらすじ] 両親ゆかりの地を巡り始める
給食センターの仕事と居酒屋の夜バイトで3年間働き、500万円を貯めた佳代。三十路に突入したばかり。キッチンカーに乗って、両親ゆかりの地を巡り始めます。後払いの調理代は一品500円。2品だと600円、3品だと700円に設定。ときには、一風変わった注文を受けることも。厄介ごとを抱える人々の「悩み」が佳代の料理で解きほぐされていきます。商売を始めて半年ぐらいが過ぎると、お客さんのどのような注文にも応じられるほど上達。しかも、一度作った料理のレシピはまず忘れません。話の展開につれ、両親の過去が徐々に明らかにされていきます。