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『晴れた日は図書館へいこう』 - 図書館の現状 + 司書の仕事 + 本の魅力

「知の宝庫」と言われる図書館。2021年における公共図書館は3316。職員の内訳をみてみると、専任職員9459名、兼任職員1100名、非常勤職員13,629名、臨時職員4068名、委託・派遣14,516名となっています。地方自治体の財政の悪化に伴う人件費削減のあおりで、非正規職員のウエイトがきわめて大きいことがわかります。図書館から得られる収入だけでは、安心して生活できないという人たちによって、いまの図書館の運営が支えられていると言われるのは、そのためです。それでいて、情報量の拡大・専門化により、図書館員に求められる力量はいっそう増加しているのです。また、財政難で、図書館を廃止したいという考え方も幅を利かせつつあるようです。今回は、そうした多くの課題を抱えている図書館の内実や司書の仕事を知るため、二つの作品を紹介したいと思います。

「図書館を扱った作品」の第一弾は、緑川聖司『晴れた日は図書館へいこう』(ポプラ文庫ピュアフル、2013年)です。本だけではなく、CDやビデオも無料で借りられる。散歩の途中で休憩したり、友達との待ち合わせをしたりと、いろいろな形で活用できる。さまざまな目的のために利用されている図書館。「本が大好きな少女」と「彼女が憧れている司書」の目線で、市立図書館の世界が描かれています。単行本としてのデビュー作。続編として、『晴れた日は図書館へいこう ここから始まる物語』があります。

 

[おもしろさ] 「ちょっと変わった日常の謎・不思議」

図書館で本を借りるときの段取り、図書館員の勤務内容・時間、読書以外の図書館の活用方法、本に対する人々の意識の変化、図書館の歴史、「1年間に300冊ぐらいが行方不明になるという実情」……。本書の特色は、舞台となる雲峰市立図書館で起きる「ちょっと変わった日常の謎・不思議」を通して、同図書館の抱える課題、司書の仕事、本の魅力が浮き彫りにされている点にあります。

 

[あらすじ] 本が大好きな少女 + 彼女が憧れている司書

小学5年生の茅野しおりは、出版社に勤めている母親との二人暮らし。10年前に離婚した父は、小説家だったようです。彼女の日課は、憧れのいとこ(母の姉の子ども)美弥子さんが昨年から司書として勤務している雲峰市立図書館に通うこと。それは、三階建ての立派な建物で、一階が小説と児童書、二階が実用書、そして三階が自習室になっています。美弥子さんは、しおりの「本の先生」でもあるのです。そして、しおりは、「どんな出会いがあるだろう。ワクワクしながら、児童書のコーナーに足を踏み」入れる毎日です。「60年前に貸し出された本を返しに来た少年」「使用禁止になったブックポスト(本を返却するためのポスト)」「次々と行方不明になる本に隠された秘密」など、六つの話から図書館の魅力・特色が語られていきます。