経済小説イチケンブログ

経済小説案内人が切り開く経済小説の世界

『おさがしの本は』 - 本・図書館・司書のパワーと大切さ

「図書館を扱った作品」の第二弾は、門井慶喜『おさがしの本は』(光文社文庫、2011年)。入職7年目の図書館員和久山隆彦の視点で、N市立図書館が抱える問題点を浮き彫りにした連作短編集。「本探し」を軸にした五つの話を通して、本・図書館・司書のパワーと大切さが提示されています。また、本に関する著者の造詣の深さを垣間見ることができる作品に仕上げられています。

 

[おもしろさ] 司書のやる気の「再発見」と図書館廃止論との対決

当初は「希望通りの配属先」と思い込んでいた市立図書館。楽しくないはずがありません。定期刊行物の整理、貸出カードの作成、館内の見回りなど、起伏に乏しい作業に精出しながら、隆彦は、おのれの幸運を信じて疑いませんでした。ところが、現実に蝕まれていったのです。彼が仕事にやる気を失った理由は三つ。第一は、図書館が行政から軽視されているという事実に気づいたこと。第二は、一般市民の利用者がきわめて少ないうえ、借りた本を汚したり、返却しなかったりと、およそ書物というものの遇し方を知らない人が多すぎるという現実を知ったこと。第三は、司書本来の仕事とは無関係な雑用に追いまくられていること。それゆえ、「しょせん図書館など知の宝庫ではない。単なる無料貸本屋か、そうでなければコーヒーを出さない喫茶店にすぎないのだ」とさえ、思い込んでしまうようになっていたのです。そのため、利用者に対する態度は冷淡になり、役人じみた応対に終始してしまいがちに…。本書の魅力のひとつは、そんな状況に陥った隆彦がどのような形で自分の仕事のやりがいを再発見していくのかを描いている点にあります。そして、もうひとつの魅力は、図書館廃止を唱える「政治家」たちに対して、どのようにすれば図書館の重要性を訴えることができ、存続につなげていけるのかという道筋を明示している点にあります。

 

[あらすじ] 本の探索という仕事の奥深さ

和久山隆彦の仕事は、図書館のレファレンス・カウンターに詰め、利用者の依頼で本を探すこと。ただ、行政や利用者への不満などから、無力感にさいなまれる日々を送っています。ところが、本の探索という仕事の奥深さを知るなかで、自らの仕事にプライドとおもしろさを再発見していくことに。和久山の心の中で、仕事に対する情熱がふたたび湧き上がってきます。