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『タルト・タタンの夢』 - シェフは「名探偵」! 

「フレンチ・レストランを扱った作品」の第二弾は、近藤史恵『タルト・タタンの夢』(創元推理文庫、2014年)。下町の片隅にあるフレンチ・レストラン「ビストロ・パ・マル」。家庭料理っぽいメニューが人気。シェフの三舟は、フランスの田舎町で修業してきた変人。やって来る客が抱えるちょっとした不可解な出来事を軸にした7つの話から構成される短編連作集。物語は、新人のギャルソン・高築智行の視点から綴られています。ちなみに、「タルト・タタン」とは「りんごのタルト」、「パ・マル」は「悪くはない」の意味。テレビ東京系列の「ドラマプレミアム23」枠で、2021年5月31日~8月2日に放映されたドラマ『シェフは名探偵』(主演は西島秀俊さん)の原作本のひとつ。続編として、『ヴァン・ショーをあなたに』、『マカロンはマカロン』があります。

 

[おもしろさ] 絶妙の料理で客の悩みを解きほぐすす

「ビストロ・パ・マル」には、実に多様なお客様がやってきます。それゆえ、お店の対応にも、臨機応変が求められます。例えば、「女優と婚約したばかりなのに、体調が悪いのか、ほとんど料理に手をつけない客」、「偏食が著しく、嫌いな食材が多すぎて、自分でも把握できていない客」、「妻が突然実家に帰ってしまい、電話にも出てくれなくなった客」など……。本書の魅力は、客たちが遭遇することになった、当事者にとっては悩ましい問題や不可解な出来事の謎を解き明かすとともに、絶妙の料理で客の悩みを解きほぐしていくところにあります。また、時折登場するのが、シェフお手製の「ヴァン・ショー」(ホット・ワイン)です。それぞれの客の心のみならず、読者の心も温めてくれることでしょう! 

 

[あらすじ] 四名のスタッフが演出する「ビストロの世界」

「ビストロ・パ・マル」は、「接待や特別な日のデートで使う店ではなく、本当にフランス料理が好きな人間ばかりが集まってくる」という感じの小さな店です。店長・料理長(シェフ)の三舟忍、スー(サブ)シェフの志村洋二(三舟の料理に傾倒している)、ソムリエの金子ゆき(俳句大好き人間)、ギャルソンの僕こと、高築智行の四名で運営されています。紙のメニューはなく、その朝、市場に言ったシェフが決め、毎日黒板に書き出します。彼らが作り出す、「料理と客とのハーモニー」とでも表現できるコンテンツになっています。