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『マグマ 小説国際エネルギー戦争』 - 地熱発電の将来性と課題

「発電方式を扱った作品」の第二弾は、地熱発電を素材にした真山仁『マグマ 小説国際エネルギー戦争』(朝日新聞社、2006年)。世界屈指の火山国と称されている日本。地球の内部にあるマグマによって作り出される「地熱貯留=熱水の水溜り」を活用する地熱発電の可能性に挑んだ作品です。2012年6月10日~7月8日にWOWOWで放映された連続ドラマ『マグマ』(主演は尾野真千子さん、出演は谷原章介さん)の原作本。

 

[おもしろさ] メリットばかりのように思えるのだが

「5年以内を目処に、日本の原子力発電所を閉鎖して欲しい」。ジュネーブで非公式に開かれた先進国エネルギー問題会議において、日本代表として出席した日本エネルギー問題研究所の川邊勲理事長に告げられた言葉です。慌てふためく川邊。果たして、日本のエネルギー政策をどのように進めていけば良いのか? 本書は、21世紀初頭における世界の最新のエネルギー問題を扱うなかで、地熱発電(地中深くから取り出した蒸気で直接タービンを回し発電する)の可能性に言及されていきます。天候・季節・昼夜の影響を受けず、安定した発電量を得ることができる。化石燃料を一切使わない。原発のように放射能漏れの心配も皆無。しかも潜在力は無尽蔵。そのように良いことづくめのように思える地熱発電。とはいえ、総発電量に占める比率はごくわずか。限りなくゼロに近い数値でしかありません。なぜなのでしょうか? 本書の魅力は、地熱発電が抱える厄介な問題の数々を指摘し、突破口がどこにあるのかを明らかにしている点にあります。

 

[あらすじ] 「競争こそすべて」から「自然との共生」へ

外資系ファンド「ゴールドバーグ・キャピタル」勤務する若き野上妙子。地熱発電の研究と運営をメインの事業とし、その分野ではパイオニア的存在でもある日本地熱開発(湯ノ原温泉で知られる大分県湯ノ原町に本社がある)の再建を任されます。同社の社長は、「日本の電子力の鬼」と称される大物政治家を祖父に持つ安藤幸ニ。地熱発電所の所長は、骨髄性白血病を患い、余命わずかな御室耕治郎。物語のひとつの軸は、ターンアラウンド・マネージャーとしての彼女の力量、その苦悩・辛さの描写です。そして、もうひとつの軸は、競争こそがすべてと割り切って考えていた彼女が、自然との共生を選ぶビジネスウーマンになっていくプロセスです。