経済小説イチケンブログ

経済小説案内人が切り開く経済小説の世界

『青年社長』 - 「おとなになったら会社の社長になります」

社長とは、会社の業務執行の最高責任者で、会社を代表する権限を有する者。出資者として会社の所有権と経営権の同時に持っている場合は「オーナー社長」、雇われて社長になる場合は「サラリーマン社長」と呼ばれています。いずれも場合でも、経営手腕が会社の運命を左右するわけですから、その責任は重大です。課せられる重圧は、相当なものに違いありません。でも、働く人にとっては、最もやりがいを感じさせる「仕事」、あるいはサラリーマン人生の到達点・目標・夢のひとつになっているかもしれません。今回は、社長を扱った作品を四つ紹介します。なお、このブログでは、2019年5月6日~5月17日に「経営者」というテーマで六つの作品2022年8月18日~9月1日に「会社のトップ」というテーマで五つの作品紹介がなされています。

「社長を扱った作品」の第一弾は、高杉良『青年社長 若き起業家の熱き夢と挑戦』(ダイヤモンド社、1999年)。ワタミの創業者である渡邉美樹(1959年生まれ)を描いた実名小説。外食産業に乗り出し、株式公開を果たすところまでが扱われています。続編となる『新・青年社長』(上下巻、角川書店、2010年)では、ワタミ(05年にワタミフードサービスから社名変更)の発展だけではなく、病院、介護、学校経営など、さまざまな試みにチャレンジしていく様子が描かれています。

 

[おもしろさ] 夢を実現させるために

「わたしは子供のころから会社の社長になると公言してきました。大きな会社に入っても社長になれる確率は非常に低いと思いますし、中小企業は創業社長が頑張ってますから、これまた社長になるのは難しいと思うんです。ですから、社長になるためには自分で会社をつくるしかありません」。めざすのは、外食産業。国の内外を旅行し、「会食してるときほど人間幸せなことはないことを実感させられた」からです。社長をめざすのは、父親が会社を潰したことと大いに関係しています。「おとなになったら会社の社長になります」と、小学校の卒業記念アルバムに書いています。昭和57年に明治大学商学部を卒業した渡邊。まずはミロク経理で半年、バランスシートの読み方を学んだあと、開業資金を得るため、佐川急便のセールスドライバー(SD)に。「一日の労働時間が20時間に近い」、「1年続いたら奇蹟」とさえ言われたものの、なんといっても高給は魅力的。「夢を実現させるための第一歩」だったとはいえ、待ち受けていたのは、過酷な労働でした。荷物をぶつけられたり、「ぎっくり腰」にやられたりといったことも経験します。ただ、どんなときも笑顔を絶やしませんでした。本書の特色は、小さいころからの夢を実現し、さらに会社を大きく飛躍させていくという、渡邉美樹の波瀾万丈の道のりを描いている点にあります。

 

[あらすじ] 実業家としてのキャリアを一歩一歩

なんとか開業資金を捻出した渡邉美樹は、つぼ八石井誠二社長の支援もあり、同社のフランチャイズチェーンとして展開していた高円寺北口店の営業権を購入。渡美商事、のちのワタミフードサービスの前身の発足です。関西風のお好み焼きハウスの「唐変木」を始めた後、新設の「白札屋」では失敗を経験するものの、日本製粉との提携により、飛躍のチャンスをつかみます。次に、「KEI太」というネーミングのお好み焼きの宅配サービスを実施。さらに、92年に新しいブランドとして、「二十一世紀の定食屋」をめざし、冷凍食品を排し、手作り料理を提供すべく「居酒屋和民」を発足。メニューはすべてオリジナル。豊富な品揃えと低価格を武器に飛躍させます。KEI太と唐変木からの撤退後は、それがメインブランドへと成長。96年に店頭公開、2年後の98年には二部上場を果たしています。