「左遷・降格を扱った作品」の第二弾は、タマヤ学校VIP4・第5班、田山敏雄・監修『偉大なる敗北者たち』(経済界、2006年)。横浜の本社から大阪支社への配置転換のあと、今度は左遷の憂き目に会う森島英司30歳。彼は、逆境を克服するだけではなく、さらにはそれを自分自身の成長・飛躍につなげていきます。ビジネススクール(タマヤ学校)の研修プログラムに参加した3名の研修生(森田裕介、安藤英司、安島泰利)によって、自らの体験をもとにした「天国と地獄」が描かれています。
[おもしろさ] 「泣き言なんか言うんじゃねえぞ」
「文化も風土も人間関係も背景もフィールドもまったく異なる環境」のもと、地獄に落とされたといっても過言ではない状況下におかれた場合、人はどのような反応を示すのか。おそらく、弱音を吐く人が多いのではないでしょうか! 本書の主人公・森島英司は「生まれつきの頑強な体と強い精神力」の持ち主。そんな彼でも、泣き言のひとつも言いたくなったようです。しかし、森島を育てた上司は言います。「お前には天性のリーダーシップと信念を貫こうとする心の強さ、そして周囲の声に流されない正義感がある。だから、大阪に行っても、きっといいリーダーになれると私は信じている。前向きな相談なら、いつでもウエルカムだ。しかし、間違っても、泣き言なんか言うんじゃねえぞ」。本書のおもしろさは、落とされるところまで落とされた人間が這い上がり、成功を勝ち取っていくプロセスを示している点にあります。
[あらすじ] 本社の意向VS 支社の思惑
高校卒業後、いったんスーパーマーケットに就職した森島英司は、2年後に首都圏の国立大学に入学。アルバイトと野球と勉強に明け暮れた学生時代を経て、衣食住充実ビジネスを手掛ける「阿部産業」に入社します。6年後、横浜本社のアパレル事業部から、大阪支社に配置替えとなります。同支社は、昨年吸収合併した駒田建材がそのまま阿部産業大阪支社建設事業部に改組されたものでした。大阪初出勤日の朝。午前8時50分、営業二課の課長となる森島を出迎える者はおらず、星、山本、柳内という3人の部下もまだ出社していません。あまり歓迎されていない雰囲気のなか、第一日が始まりました。吸収合併に伴い、旧駒田建材の社長・駒田一央は、阿部産業の専務取締役兼大阪支社長、常務の安田宏幸は取締役として、大阪支社の実質指揮を執る建設本部長に就任していました。その事実からもわかるように、大阪支社には、旧駒田建材の社風がそのまま維持されていたのです。「完全実力主義の歩合制給与システム」を採用し、「他人のことはどうでもよい」という風潮が横行していました。本社の意向は、伸び盛りで実力もある森島を栄転させ、なんとか大阪支社の状況改善を図りたいというものでした。他方、森島に対する大阪支社幹部の態度は、「つぶす、取り込む、はずす」のいずれかを実現させるというものでした。結局、森島は、「はずす」という支社の意向にそって、日本橋の食品事業部に転勤することに。同事業部は衰退セクションであり、だれの目にも明らかな左遷でした。しかし、森島は、「食品事業部を阿部産業のトップの事業部にしたい」と意気込みます。