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『左遷社員池田リーダーになる』 - 「古き良き」企業文化を有する中堅メーカーの命運

「左遷・降格を扱った作品」の第三弾は、鈴木孝博『左遷社員池田リーダーになる』(リーブル出版、2016年)。ドレッシングやソースの製造・販売を手掛ける中堅メーカー「フリージア」の中堅社員である池田俊一が主人公。社員の意見をよく反映させ、一丸となり、会社を発展させてきた創業社長の急死で、数字しか信用しない新社長が登場。会社は大きく揺れ動き、危機に瀕することに。果たして、フリージアの運命はどのようになっていくのでしょうか? また、仲間から信頼される存在になっていく池田は、会社の再建にいかなる役割を演じるのでしょうか? 

 

[おもしろさ] 対照的な二つの経営者像

社員ひとりひとりと接し、話し合い、任せるところは、大胆に任せる前社長の大山一郎。他方、数字で表れたことにしか興味を示さず、反対するものをすべて敵とみなしてしまう現社長の白川雅人。本書の特色は、第一に、対照的な二人の経営者を登場させ、経営者の資質に関する鋭い問題提起を行っている点にあります。また、第二の特色として、左遷された池田がなぜ再びやる気を起こするようになるのか、そのなかで、どのようにしてリーダーとしての資質を鍛えていくのかというプロセスが描写されている点にあります。

 

[あらすじ] 反乱分子とみなされて左遷された池田

1974年創業の大山食味研究所(のちのフリージア)は、従業員6名のアットホームな零細企業。その後、社長の大山一郎と営業担当の近藤喜和の頑張りのおかげで、大きく発展。存在感のある中堅企業に成長していきます。ところが、2010年、大山が急死し、コンさんこと、副社長だった近藤も、後継に道を譲り、会社を去っていきました。代わって、フリージアのかじ取りを担ったのは、大山の娘婿に当たる白川雅人社長と、彼の盟友である山沢智彦取締役経営企画室長でした。白川の前職は銀行員、山沢は経営コンサルタント。二人とも、数字でしか物事を考えないところがあり、フリージアの企業文化をまったく評価しようとしません。前社長の大山に抜擢され、同社の頭脳集団である事業開発部に所属していた池田は、新体制下で「反乱分子」とみなされ、社内報の創刊と社史の編纂業務に携わる「上場準備室」に配属となります。人員は池田のみで、明らかにラインから外された左遷人事でした。落胆し、転職を考え始めた池田の前に、清掃員の格好をした元副社長の近藤があらわれ、助けてほしいと懇願されます。