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『集団左遷』 - 「無能」の烙印を押された50人のリストラ予備軍の奮闘

「左遷・降格を扱った作品」の第四弾は、江波戸哲夫『集団左遷』(祥伝社ノン・ポシェット、1995年)。バブル崩壊後の不況期、到底達成できない目標を課すことで、50名もの社員を解雇することを目的に、三有不動産の副社長が創設した「首都圏特販部」。本部長に指名された篠田洋のもと、「無能」の烙印を押され、特販部に集団で左遷された部下たちは必死の思いで、営業活動を展開するのですが……。1994年10月29日に公開された映画『集団左遷』(監督:梶間俊一さん、主演:柴田恭平さん、出演:中村敦夫さん)の原作本。初刊本は、1993年に世界文化社から刊行。

 

[おもしろさ] 余剰人員を解雇しようとする副社長の執念

バブルが弾けて以降、オフィスビルをはじめ、不動産に対する需要は急速に冷え込み、どの不動産会社も、多くの売れない物件に苦しんでいました。そこで、三有不動産の横山副社長は、敵意を持ち続けていた篠田洋だけではなく、余剰人員を陰湿なやり方で会社から放逐しようと画策。執念のテコとなったのが「首都圏特販部」。「50人の余計者を集めて、できもしないに難癖をつけて放り出すつもり」だったのです。本書のおもしろさのひとつは、人物描写にあります。具体的には、「リストラ予備軍」と目された50人のうち、主要メンバーのそれぞれが「抱えている問題の数々」「特販部に対する思い入れ」「会社に対する複雑な感情」などがリアルに描かれています。もうひとつのおもしろさは、目標を達成するために、各人がどのような働きをするのかに関する叙述にあります。

 

[あらすじ] 特販部は、生き残ることができるのか? 

1993年1月18日、横山副社長から、首都圏特販部の本部長をやってもらいたいと言われた篠田洋(7年前、38歳の彼は開発部にいて、「地上げ」にも関わっていった。いまは総務部で働いている)。同年2月1日に発足する同特販部の目的は、首都圏で売れ残っている土地の転売、マンション・分譲住宅の販売、オフィスのテナント探しなど。しかし、60億円という初年度の目標額や第一期3月末までの目標額10億円を達成するのは、誰が見ても実現不可能な数値と言わざるを得ません。しかも、寄せ集められた50人の陣容は、問題児やほとんど戦力にならないと考えられている者ばかり。さらには、会社側からの支援は皆無。というより、特販部への「スパイ」の送り込みをはじめ、会社側のさまざまな妨害行為が行われることに。果たして、特販部は、生き残ることができるのでしょうか?