新年あけましておめでとうございます。あなたにとって、2025年が良い一年になることを願いながら、おもしろい経済小説・お仕事小説の紹介を続けていければと思っています。今年もまた、午前9時から午後5時までは、「仕事+趣味」の時間と位置づけ、なにかを追求していければと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。
新年最初のテーマは例年、「はじめて物語」と銘打って、事業の始まりを描いた作品を選んで紹介しております。本年もまた、三つの「はじめて物語」を紹介いたします。「はじめて物語」の第一弾は、楡周平『黄金の刻 小説 服部金太郎』(集英社文庫、2024年)です。世界的時計メーカーである「セイコー」の創業者・服部金太郎の一代記。史実をもとにしたフィクション。彼の経営者としての資質、人間性、才気がよくわかります。2024年3月30日(土)、テレビ朝日のドラマプレミアム『黄金の刻』(主演は西島秀俊さん、出演は水上恒司さん)の原作。初刊本は、2021年に集英社から刊行。
[おもしろさ] 「でもね。勝ち目はあると思ったね」
本書の魅力は、服部金太郎を通して浮かび上がる経営者としての資質・考え方を浮き彫りにしている点にあります。①時代の流れを読み、知恵を絞ることの大切さ。②大きな夢を持つことの必要性。③「経営者の人となりは従業員の仕事ぶりに表れる。服部時計店の雰囲気は従業員全員が会社に誇りを持ち、経営者に絶対的な信を置いていればこそ」。④「他人の言葉に耳を傾け、さらに己の人生に、事業に大切なものかどうかを見分け究め、取り入れる能力に長けている」。⑤「会社は、経営者が金儲けをするためにあるのではありません。従業員を幸せにするために、ひいては幸せな社会をつくるためにあるんです」。⑥アメリカの巨大な機械・システムを見たときの感想は、驚きだけではありませんでした。「あんな光景を見せつけられると工業力では絶対に日本は勝てんと、つくづく思ったね。なるほど、世界を相手に商売をするというのは、こういう会社を相手にすることなのかと思い知らされたよ。でもね。吉川さん、精工舎にも勝ち目はあると思ったね。いい時計を造るのは機械じゃない。人間だ。技術者であり、職工なんだよ。製造に携わる人間の情熱と技術で時計の性能、価値が決まるんだ……。日本の工業力が欧米に遠く及ばないのは事実さ。でもね、君を含めて精工舎の技術者、職工もそうなのかといえば、そんなことはない。それどころか、遥かに優ると私は見たね。日本は古くから職人が産業を支えてきた国だ。丁寧さが求められる仕事はお手の物だし、欧米人が真似しようにもまねできない、優れた技が日本には山ほどあるからね。」⑦ピンチをチャンスに変える力。いまでも十分通用することばかりではないでしょうか!
[あらすじ] 15歳にして「大きな夢」と目標を
明治7年、15歳の服部金太郎は、2年間、東京の洋品問屋・辻屋の丁稚として働いていました。年季が明けたら、「己の足で立つこと。事業を起こし、実業家としての道を歩む」ことを密かに決めていました。彼の商人としての素質を評価した主人の辻粂吉は、彼を辻屋の一員として迎えようとします。ところが、金太郎は、時計を扱う店で独立を果たそうとするのです。将来的には鉄道網の発達によって、一人一人が正確な時間を知りたいと思う時代が到来し、時計に対するニーズが爆発的に伸びると考えていたからである。やがて、「服部時計店」をオープンさせた金太郎は、周囲の人たちに助けられながら、世界に羽ばたく時計メーカーを築き上げていくことに。