「お仕事いろいろ」というテーマのもと、紹介される作品の第二弾は、鳴海澪『ワケアリ結婚相談所-しくじり男子が運命のお相手、探します』(マイナビ出版ファン文庫、2016年)。自分の「しくじり」で離婚してしまった大和田大輔31歳。結婚相談所「愛・燦々」の所長・桜沢竜子の強引なスカウトに押し切られ、相談員になります。わがままな顧客・依頼人たちに振り回される大輔の姿が描かれています。
[おもしろさ] 結婚を願望する人にとっての「最後の砦」!
多くの結婚相談所は、たとえ実現できないと思っていても、依頼人・顧客の要望に沿った人物を紹介してくれると考えられているようです。でも、「愛・燦々」は、依頼人の要望が無理な場合は、「最初から、その条件に合った相手を探すのは無理、やっても無駄に終わる、だからもう少し現実的に考えてみませんか。相手に何を求めるのか、そのために自分は何ができるのかという答えが出たら、もう一度お越しください」というスタンスで、依頼人と接するのです。そのことで、たとえ依頼人に怒鳴られようと、そうした厳しい姿勢こそが、当事者にとっても有益なものになるという考え方があるからなのです。また、依頼人にとっては「最後の砦」として認知されることに誇りを持っているのでしょうね。本書の魅力は、自らを省みることなく、「無理な要望・条件を言い連ねる依頼人」と、「過度な要望を厳しくいさめる相談員」とのやり取り、両者の距離が少しずつ埋められて話が進展していく様子などが描かれている点にあります。
[あらすじ]「結婚は遊びじゃない、甘い考えじゃ成功しない」
根っからのお嬢様・万里小路菜々子と経済的に苦労ばかりしながら育ってきた大輔。卒業して3年、証券会社の営業の仕事も軌道に乗ってきたと考えた彼は、周囲の大反対を押しきり、彼女と結婚。1年後に、娘の香奈が誕生。ところが、5年後、子育てのやり方をめぐって、両者間の溝が決定的なものとなり、離婚が成立します。精神的に消耗した大輔は、退職を決意。その直後、あるカフェで結婚詐欺に遭っている女性を助けようとしたことがきっかけとなり、桜沢竜子が経営する「愛・燦々」で働き始めます。竜子が言います。「この愛・燦々はどうしても結婚できない男女が最後にたどり着くところなのよ。いわば駆け込み寺ね……。駆け込み寺と一緒で、うちは厳しいわよ……。だって結婚は遊びじゃないもの。人生においていちばん大きな事業と言ってもいいわ。甘い考えじゃ成功しない……。だから本当に結婚したければ、まず自分を省みろということをこの結婚相談所では教えるの」。そこで働いているのは、所長、正社員になった大輔、アルバイトの弓削雪舟の3人です。しかし、依頼者にとっては、まさに「最後の砦」としての役割を果たしていたのです。