「お仕事いろいろ」というテーマのもと、紹介される作品の第四弾は、浜野稚子『野菜ソムリエ農家の赤井さん』(マイナビ出版ファン文庫、2020年)。大学生になり、料理の楽しさを見出した青田モモコ20歳。野菜に興味を持ったことから、野菜ソムリエの資格を有する赤井さんの家で、農作業に従事するようになります。進路に悩む女子大生・モモコ(赤井につけられたニックネームが「青モモ」)と、野菜を心底愛する農家・赤井雄介の心の触れ合いが描かれています。
[おもしろさ] 仕事選びの本質は、それに愛情を持てるかどうかだ!
「キラキラと明るいスタジオで楽しそうに料理する人達が単純に羨ましかった」。「輝いて見える世界で好きなことをしてちやほやされたい」。そのように思っていたモモコは、雄介に諭されます。「褒められたりありがたられたり、ちやほやされなきゃできないなら、どんな仕事も続かねぇよ」「誰でもできる仕事をどれだけ信念を持ってただひたすら続けられるか。それが重要だ」。「青モモ、野菜はいいだろう? 人間みたいにうっとうしくない。ナスは特に、素直な野菜だ。そこが俺は好き。……いい加減な育て方になるなら俺は嫌だ。そんならやんない方がいい。野菜がかわいそうじゃん? 育てるときは真剣じゃねーと」……。仕事を選ぶときの本質が濃縮されているのではないでしょうか!
[あらすじ] 不愛想で横柄、人使いも荒い赤井さん。でも……
めざすものがなく、特技もなかったモモコ。それまでは、すべて消去法で決め、無難に過ごしてきました。ところが、大学進学を機に始めた一人暮らしで料理の楽しさに目覚めます。何かにハマったのは、初めての経験でした。そして、「消去法選択で進んできたものとは全く違う進路、料理研究家かフードコーディネーターになりたいという思いが強くなった」のです。ある日、地方局の朝の情報番組で見た「イケメン野菜ソムリエ」がつくる料理というものに惹きつけられることに。テレビで紹介された野菜カフェ「レギューム」を訪れたモモコは、農業体験の案内を見て、募集している赤井雄介の家に赴きます。ちょうど台風が近づき、早くナスを収穫しないといけないときだったので、彼女は、直ちに農作業に従事。腰を痛めている祖父の赤井幸太郎は、仕事を休んでおり、人手がまったく足りていない状態だったのです。雄介の態度は、不愛想で横柄そのもの、人使いも荒い。にもかかわらず、なぜかモモコは、夏季休暇の大半を赤井の家に住み込み、がむしゃらに働き続けることになったのです。