「商社マンを扱った作品」の第六弾は、大原省吾『レバレッジ』(双葉社、2013年)。イラク北部のクルド人自治区にある北部第一鉱区に、レアメタルのリチウムが埋蔵されているのではという情報を得た総合商社の五陵商事。資源メジャーもまた、同じ情報をゲット。待ち受けている同鉱区の国際入札で、五陵商事に落札させないための資源メジャーの極秘の攻撃が始まります。五陵商事は、入札に向けて調査団を現地に派遣。ところが、そのための調査団が拉致されてしまいます。そこで、同僚を救うため、6名の商社マンが、国際市場から身代金の5000万ドルを調達しようとするのですが……。資源メジャーの卓越した支配力に抗しつつ、奔走する商社マンたちの活躍を垣間見ることができる作品です。
[おもしろさ] 資源メジャーの前では「赤子同然」
五陵商事は、伝統的に資源に強く、特に原油やLNGなどの燃料資源、鉄鉱石などの鉱物資源の取扱量は競合する競合商社を圧倒しています。しかしながら、資源メジャーの前では、「赤子同然の状態」でしかありません。あたかも、両者の立つ位置は巨象に立ち向かう蟻のようなものかもしれません。本書の魅力は、そんな商社と巨大な資源メジャーとの争奪の最前線を浮き彫りし、不可能と思えた資金調達と人質の救出をどのように達成していくのかという困難な過程を克明にフォローしている点にあります。
[あらすじ] 自己資金ゼロで、リターンを上げる救出計画とは?
五陵商事経営戦略室長・結城正人は、すい臓がんに侵され、国立がん研究センター中央病院に入院中。そんな結城に、同社の非鉄金属部部長・友永悦郎が率いる調査団が拉致されたという知らせが届きます。拉致したのは、クルド独立戦線のリーダーであるアズハル・カリーム。背景には、アメリカ政府や資源メジャー(ユナイテッド・アメリカン、BTMバリントン、ティオ・リントの3社)の思惑が見え隠れしており、日本政府は、救出に及び腰。そのような状況下、27歳だった1990年、同期入社の友永に助けられた結城は、今度は「オレが助ける番」だと、行動を起こします。末松会長の特命事項とはいえ、会社として認められたものではありません。そこで、有能だが、社内では「はみ出し者」ばかりを集めた極秘のチームを結成。調査団の公開処刑まで、14日しか残されていないというタイミングでした。「その救出計画をひとつのビジネス」「小さな元手で大きなリターンを得るリバレッジ」として考えている結城は、5000万ドルもの巨額の身代金をどのようにして調達し、救出することができるのでしょうか?