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『史上最強の内閣』 - 有事に備えた極秘の内閣

「摩訶不思議な内閣を扱った作品」の第二弾は、室積光『史上最強の内閣』(小学館、2010年)。わが国が本物の危機に直面したときのためにあらかじめ用意されていた極秘の「一軍内閣」。日本を守るために登場したその内閣は、どのような働きをするのか? 

 

[おもしろさ] 危機への対応 + 日本の将来に向けての構想 

本書のおもしろさは、非常時に一軍の最強内閣を登場させることで、二つの点を明らかにしていること。一番目は、従来の特になにもやらなくても国を運営できたという現状を批判的な目線で見るとともに、読者にそれでいいのかを考えさせてくれること。例えば、①軍事費を削減し、平和国家を堅持することの是非。②北朝鮮工作員に対する型破りな対策。二番目は、将来の国づくりのために必要な諸政策・考え方・構想を例示していること。例えば、①子供も恥をかくことを覚える必要があること。②子どもたちが好きなことを見つけたり、それを伸ばしたりするために、中学3年間で男女を問わず、いろいろなモノづくりを経験させることや、多様な学びができるような特色ある高校をつくること。③国を挙げてのボランティア活動の展開などを挙げることができるでしょう。

 

[あらすじ] 「二軍の内閣」と「一軍の内閣」

北朝鮮が日本に向けて中距離弾道核ミサイルの発射を準備しているという情報が世界を駆け巡り、日本は存亡の危機を迎えることに。「東京を壊滅させる」と、脅かされているにもかかわらず、二世、三世ばかりの政治家たちは、腹が据わっておらず、安全保障上の危機に立ち向かう力を持っていません。それゆえ、総理大臣浅尾一郎は、現在の「二軍の内閣」に代わって、「一軍の内閣」にバトンタッチすることを宣言。京都の名門公家の出身である二条友麿を首班とするその内閣は、危機の際に「期間限定」で登場することを想定してあらかじめ準備されていた「最強の内閣」だったのです。歴代のアメリカ大統領も、訪日の際には京都御所内にある二条家のもとに挨拶に来るようです。こうして、内閣を構成する個性的な大臣たちは、大方の予想とは著しく異なった行動をスタートさせることになります。内閣官房内閣情報調査室のトップを務めるのは、伊賀の忍者でもある服部万蔵。彼らの情報収集能力は格段に高いのです。一方、東亜テレビの小松修司と朝地新聞の半田三生は、それぞれの上司から二条内閣に密着し、極秘に「二条内閣の歴史的事実を記録する」という大役を命じられます。