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『だがしょ屋 ペーパーバック物語』 - 古書店 + 駄菓子屋

「ハイブリッド型の店を扱った作品」の第三弾は、竹内真『だがしょ屋 ペーパーバック物語』(だいわ文庫、2017年)。舞台は「だがしょ屋」。平台には駄菓子、壁の棚には古い文庫本が並べられています。店主の世原ヤマトと、脚本家志望の塚田祥介や女優をめざす鈴(祥介の恋人・劇団の研修生)といった常連客との交流、ちょっとした事件やトラブルが、祥介の目線で描写されています。

 

おもしろさ] 顧客のニーズに合致した本を推薦できるチカラ

本書のおもしろさは二点。一つ目は、店主であるヤマトさんの本に関する知識が半端ではないこと。それゆえ、客のニーズに合わせて、本の内容を的確に紹介し、さまざまなアドバイスができるのです。例えば、この本を「読んでも燃えないような仕事だったら辞めちまいな。続ける価値もない仕事か、あんたが燃えるチカラも残っていない燃えカスか、どっちかだよ」という具合です。二つ目は、駄菓子プラス古書というハイブリッド店の特性・メリットが随所で浮き彫りにされていること。例えば、駄菓子を食べながら本を読んだり、選んだりできるお店になっています。また。本来、駄菓子屋と言えば、子どもの「社交場」。しかし、古書店を併設していることで、だがしょ屋には大人の常連客も多いのです。

 

[あらすじ] 毒舌のような口調に隠された「真の優しさ」

脚本家になりたいという夢を持ち、創作活動に役立つかもしれないということで始めたホストクラブをクビになり、無職になってしまった祥介。陰鬱な気分で歩いていると、小柄な老婦人がダンプの運転手に激しい口調で「啖呵を切る場面」に遭遇。2日後、ハローワークに行くついでに、好奇心で「駄菓子屋」に行ってみようと思いたちました。老婦人の発した、店名らしい「だがしょ屋」という言葉から駄菓子屋と思い込んでいました。ところが、瓦屋根の木造家屋の「古めかしい一枚板の看板」には、確かに「だがしょ屋」の文字があったのです。それは、駄菓子屋と、もっぱら文庫本に特化した古本屋を合わせたお店でした。祥介は、店主のヤマトさんに薦められた「うまい棒の納豆味と鮮やかに黄色いニッキ水のボトルを手に、手作りらしい木の長椅子に落ち着くことになった」のです。「居心地のいいお店ですね」という、心の底から発せられた言葉とともに、祥介とヤマトさんの交流が始まりました。毒舌のような口調のなかに隠されたヤマトさんの「真の優しさ」を垣間見ることができるのも、本書の魅力になっています。