「お仕事いろいろ」というテーマで紹介される作品の第六弾は、いぬじゅん『新卒ですが、介護の相談うけたまわります』(一迅社メゾン文庫、2018年)。舞台は、浜松市の福祉施設。相談員の経験が皆無ですが、「介護保険外相談所クルクマ」に配属され、相談員としてのキャリアをスタートさせたばかりの小飼里枝。「所長である早馬海吾のサポート」もあり、持ち前の前向き精神を発揮し、相談員として成長していく姿が描かれています。介護に関する知識を広く学べる作品でもあります。
[おもしろさ]「よく話してくれましたね。一緒に道を探しましょう」
本書のおもしろさは、新米相談員の里枝が、さまざまな試行錯誤を繰り返しながらも、相談者に寄り添い、対応策・解決策をアドバイスするようになっていくプロセスの描写にあります。キーとなるのは、なんと言っても、早馬所長のアドバイス。「相談の基本は、質問を端的に短くして、まずは相手にしゃべらせる。そしてそれを自分のことのように置き替えて聞くんだよ」と。でもそのように言われても、なかなか実行に移すのはむずかしいもの。そこで、早馬は、里枝を相手に相談するときのポイントを伝授します。里枝に自由にしゃべらせた後、「本当に、悲しい思いをされているのですね」「さぞかし……悔しくて苦しいでしょう」「お話を聞いていて苦しくなりました。突然にそんな悲しい出来事にあったなんて……よく話してくれましたね。ありがとうございます」「一緒に、悩んで道を探しましょう」と。不思議なことに、そのような言葉を聞いているうちに、里枝は、相手との距離が縮まったように思えたのです。
[あらすじ] 「介護の仕事を始めたばかりの私に言う」?
浜松市にある「花の郷会」。特別養護老人ホーム、ヘルパー事務所、デイサイビスなど、多様なサービスを展開する福祉施設です。特別養護老人ホームの生活相談員にあこがれ、必要な資格である社会福祉士を取得した小飼里枝。大学を卒業し、ついに念願の職場で働けると思っていたところ、配属されたのは、「介護保険外相談所クルクマ」。所長の早馬海吾と事務員の鈴木せつ子と新米の里枝という、総勢3名の零細部署でした。「介護保険では対応できないような相談を受けつける事業所」ということになっているのですが、要は、介護に関連すれば、一回500円で、住民たちのどんな相談事にも応じるのが仕事だったのです。ただ、場所は「簡素なプレハブの平屋の建物」。というのも、その部署は、花の郷会にとっては、「お荷物以外の何物でもない」位置づけと考えられていたのです。クルクマにやってきた初日、所長が里枝に言います。「まずは、相談内容を本気で傾聴するんだ。他人事じゃなく、しっかりと深く同調する練習をしてみろ。それを記録にまとめて、解決できそうならば協力するってことだ」。所長は、それだけ言い放つと早速、その日の最初の相談者との応対を里枝に委ねます。相談者は内田則子38歳。中学3年生の娘の茜が「介護の仕事をしたいと言っている。娘には、その仕事をめざすのを止めるように説得してほしい」というものだったのです。「それを介護の仕事を始めたばかりの私に言う?」のかと、最初は戸惑い、応えるのは絶対ムリと思った里枝。しかし最終的には、彼女は、相談者に見事な道筋を提示することができたのです。いったい、どのようにしたのでしょうか?