「お仕事いろいろ」というテーマで紹介される作品の第七弾は、小森陽一『オズの世界』(集英社文庫、2015年)。波平久瑠美22歳が東京ディズニーランドを初めて訪れたのは、幼稚園のとき。それ以来、寝ても覚めても、頭のなかはディズニーランドのことで一杯。大学に進学すると、実際にキャストとして働きました。が、就職試験の結果は不合格。都内の大手ホテルに採用されたのですが、福岡県と熊本県の県境にある「東洋スーパーワンダーランド」(TSW)に出向することに。集客力、イベントの量と質、スタッフの力量など、ディズニーランドとは雲泥の差があり、落胆ばかりの毎日が始まりました。それでも、懸命に働くうちに、「TSWの良さ」を少しずつ見出せるようになっていきます。2018年10月26日に公開された映画『オズランド 笑顔の魔法おしえます。』(主演は波留さん、西島秀俊さん、橋本愛さん)の原作。
[おもしろさ] 変わりゆく波平久瑠美
本書の特色は、第一に、入園者が少ない地方の遊園地TSWの魅力づくりのために奔走するスタッフたちの姿が浮き彫りにされていること。第二に、入社したばかりの波平久瑠美が、同僚と協力して、徐々にTSWの活性化に重要な役割を果たすようになっていくプロセスをフォローしている点にあります。最初は、同園の実態に驚き、バカにしていた久瑠美。次に、1年間でホテルに戻すという上司の甘い言葉を受け、覚悟を決めて働き始めます。ただ、与えられた仕事については、しっかりやり遂げるという気持ちで取り組んだり、新しい企画を考えろと言われ、「落とし物の返還」という企画を提言したりしているうちに、自分の至らなさを発見。それを契機に、彼女の働きは、輝きを増していくことになるのです。
[あらすじ] 「オズの魔法使いが棲む国」って?
生まれも育ちも東京都内、生粋の江戸っ子である波平久瑠美。東京ディズニーランドの大ファン。そこで働きたいと熱望していたものの、願いはかなわず、全国で20か所の拠点を数える「ホテルロワイヤル」に内定。自分の部屋を埋め尽くしていたディズニーグッズを処分し、「遊園地には二度と行かない」と決めました。ところが、入社すると、ディズニーランドで長年働いた経験があるという理由で、業務提携をしている東洋スーパーワンダーランドに出向せよという辞令が。こうして、九州の片田舎にある、行ったことも聞いたこともない遊園地で働くことになったのです。最初にTSWを訪れた久瑠美は、入場者があまりにも少ないことにショックを受けます。宮川肇社長と一緒に園内を回っている際、展望台から見た有明海のすばらしい遠景を眺めても、特別の感情を持つことができません。また、「オズの魔法使いが棲むような」国=遊園地にしたいという社長の夢・抱負を聞いても、意味が分からず、「何、それ?」というリアクションを発しただけ。その後、東京ディズニーランドが好きで、キャストとして表彰されたとはいえ、久瑠美は見たのはごく一部にすぎず、それでも知っているつもりになっていたことに、初めて気づきます。「オズの魔法使いが棲む国」という宮川社長の夢を、「社員の働きによって、どれだけでも広がったり豊かになったり楽しくなったりする場所だ」と、彼女なりに解釈するに至ったのです。
