「カウンセリング」を扱った作品の第二弾は、柊サナカ『ひまわり公民館よろず相談所』(角川文庫、2023年)です。なにかに困ったとき、頼りになる専門家のアドバイスやサポート。「住民いきがい特区」というコンセプトのもと、流山市向日葵町には、どこにでもある「人材センター」とは異なり、非常にユニークな相談所が開設されています。その名は、「ひまわり公民館よろず相談所」。植木職人、ふすま職人、蕎麦屋といった職業のみならず、「特技」や「得意なこと」でも登録できることになっています。例えば、「犬のしつけ」「褒め讃えるのが得意」「だじゃれ専門」「どんなことでもうまく断ってくれる」「励まし屋」など、その相談所に行けば、さまざまな悩みや不安に応えてくれるスタッフに出会うことができるのです。本書では、そこにやってくる住民たちとなんらかの特技を有した「専門家」との心の交流が温かいタッチで描かれています。
[おもしろさ] 四つの切り口
本書の意義は、いくつかの切り口から大いに参考になるコンテンツになっている点にあるのではないでしょうか。第一に、「公民館が主体となって推進するきめの細かな住民サービス」の一環として位置付けることができます。第二に、「得意なことで人様のお役に立てるのは、やりがい」につながるがゆえに、多くの人の生きがい・やりがいの発掘につながる企画にもなりえます。「みんなね、一線を退いてから、何かで自分が人の役に立てたらって、うずうずしてるのよ」。第三に、地域住民の助け合い・交流・協力の一助となります。ちなみに、相談所を利用したいときは、チケットを1枚500円で購入し、それを担当する「専門家・相談員」に手渡すことで、アドバイスやサポートを受けることができます。そのチケットは、ほかの相談員に依頼するとき使われたり、提携する商店街で品物と交換できたりできるようにもなっているのです。第四に、本当に困った人にアドバイスなどを行うとき、いかなる向き合い方が有効なのかを探るうえで有効なノウハウが詰め込まれています。それゆえ、カウンセリングに携わる人のお仕事のやり方を学ぶことができます。「誰しも、心の中で言われたいひとことって、あるんだと思います。誰かにそう言われたら、今日一日を頑張れるというような言葉がね」。そういう言葉とは?
[あらすじ] 各人の「小さな得意を集めて、力を合わせれば」
生後5ヶ月、息子の蒼が泣いてばかりで困り果ててしまった八山友里28歳。夫の転勤で、流川市向日葵町に引っ越ししてきたばかり。周りに友人・知人はいません。激務で出張の多い夫には頼れず、実家も遠いので、育児のことで気軽に相談できる人がいないのです。ある日、友里は、泣く子を連れて、行く当てもなく歩き続け、気が付くと、児童館のある公民館にやってきました。にこにこ顔の受付の人の「2階ですよ」という声に促され、階段を上る友里。なかから出てきたのは、優しそうなおばあちゃん。「まあまあ、元気な赤ちゃんねえ」「可愛いねえ」と、「手足を触って体温を確かめ、背中も触っておむつも確かめて、ベビー服を緩めた」彼女。蒼を抱き、何か歌いながら歩くと、すぐに寝てしまったのです。知らない人に抱かれると、いつももっと大泣きするはずなのに、いったいこの人は? 名札を見ると、「長谷川園子/赤ちゃん寝かしつけ屋」と書かれていました。保育士歴50年という園子さんの赤ちゃんのあやし方は、それはもう実にうまいのです。このことが契機になり、友里もまた、「スマホいじりの友里」として登録され、相談所の常連に。そして、他の人たちの困りごとの解消に、「それまで意識しなかったパワー」を発揮するようになっていくのです。「一人ひとりの小さな得意を集めて、みんなで力を合わせれば、俺たちだって人のために、何かできるかもしれない」。そんな相談所の物語です。
