「医師」を扱った作品の第二弾は、江川晴『麻酔科医』(小学館文庫、2011年)です。「手術患者に麻酔をかけて眠らせる」。麻酔科医に対する一般的なイメージは、そのようなところでしょうか。だからこそ、メスを握る医師が安心して難しい手術をやり遂げることができるにもかかわらず、脚光を浴びることはあまりありません。しかし、麻酔科医の役割がけっして小さくないこともまた事実。本書を読めば、麻酔科医のさまざまな役割に気づかされることになります。新人麻酔科医・神山慧太が経験する挫折感と使命感が明らかにされていきます。
[おもしろさ] 麻酔とは? 麻酔科医の仕事とは?
本書の魅力は、次の三点がよくわかることです。①麻酔とはどういうものなのか、またどのように作用するのか。②麻酔科医の仕事はいかなるものなのか。③挫折感を味わった新人麻酔科がどん底から這い上がることができたのは、どのような経緯だったのか。
[あらすじ] 単調どころか、「日々新しい発見や体験の連続」
2年間の臨床研修を経た神山慧太が麻酔科医として働き始めたのは、神奈川県下の公立総合病院「南関東医療センター」。「あまりパッとしない存在だなァ」「毎日同じことの繰り返しで単調な生活になってしまうのではないか」。そうしたことを心配しながらも、出身大学である名門の私立A大学医学部麻酔科医の教授の推薦もあって、麻酔科医の道を決めたのです。しかし、仕事に関わり始めると、単調どころか、「日々新しい発見や体験の連続」であることがわかってきたのです。やがて、「困難な大手術によって、患者の生命がどのような危機にさらされようとも、麻酔科医として知識と技術をもって生命を守り切ること」「患者に肉体的、精神的苦痛を与えないこと」「執刀医が、安心して持てる知と技を最高に発揮できるよう、最善の条件と環境を創り出すこと」を、自分に課せられた使命として肝に銘じるようになっていきます。ところが、「心中溢れんばかりだった自信が雪崩のように崩れ去っていく」挫折と屈辱の思いを抱く事態が発生することに… …。
