「医師」を扱った作品の第四弾は、仙川環『処方箋のないクリニック』(小学館文庫、2023年)です。傷害や病気の治療ではなく、もっぱら医療相談にのってくれるという、きわめてユニークなクリニック。医師の青島倫太郎は、「上半身はパリッとした紳士風なのに、下半身は膝丈のパンツ」という格好。しかも、診察室には、スイーツと紅茶の香りが漂っているのです。そのクリニックでは、患者たちは、じっくりと時間をかけて、さまざまな悩みを打ち明け、医師の意見を聞くことができるのです。
[おもしろさ] 患者と家族の「人生」を治療してくれる医師
心身に異常を感じたり、ケガをしたりすると、人は病院で治療を受けます。医師は、検査をして病名をつけ、薬を処方したり、手術を勧めたりすることになります。多くの場合、それで解決するわけです。が、それだけでは足らないケースもまれではありません。患者は、自分の症状、検査の結果や見方、治療の方針などに関して不安や疑問に思っていることをもっと医師に聞きたいと考えています。にもかかわらず、多くの医療現場では、ひとり一人の患者に割かれる時間はきわめて限られているからです。じっくり相談を受ける場が不可欠だと考えた青島倫太郎(青島総合病院理事長の兄)が開設したのは、医療相談に特化したクリニックでした。「患者さんの中には、頭が固くて困った人もいる。滑稽なほどの心配症もいる。そして家族の方も患者さんとどう接したらいいか悩みを抱えているケースも多い。でも、みんな真剣だ。そういう人たちと、正面から向き合って話しているうちに、いろんなものが見えてくる。その積み重ねが、医者としての財産になると僕は思っている… …」。本書の特色は、そのような考えを有した医師・青山倫太郎がいかなる課題に直面しているのか、患者たちのさまざまな悩みをどのように解決していくのかを描いている点にあります。彼は、患者と家族の病気ではなく、「人生」を治療してくれる医師と言えるかもしれません。
[あらすじ] 思い込んだ人の考えを変えるのは、至難の業
青島総合病院には、患者やその家族の悩みや不安に応えてくれる「総合内科」があるらしい。もっとも、「総合内科」という名はついているものの、ほかの医療機関のそれのように内科全般の診療を行うのではなく、医療相談に特化しているクリニックだそうだ……。そういう評判・口コミを聞いて、患者や家族が雑木林の奥にある古びた建物のクリニック(総合病院の本院の敷地内にではなく、廃屋同然の別棟にある)を訪れるのです。例えば、目が悪いにもかかわらず、クルマの運転を続けようとする父や、怪しげなサプリメントに大金を投じ続ける母などが登場。客観的に見たら、間違いであるにもかかわらず、正しいことだと思い込んだ人の考えを変えるのは、至難の業。それらの相談事に対して、倫太郎は真正面から向き合います。


