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『はい、総務部クリニック課です。』 -  企業内で働く医師と薬剤師

「医師」を扱った作品の第六弾は、藤山素心『はい、総務部クリニック課です。』(光文社文庫、2022年)です。清掃用具などの美化用品を製造販売する株式会社ライトク。その東京本社にある小会議室に新設されたのは、「総務部クリニック課」と「薬局課」。前者には課長兼医師の森琉吾36歳、後者には課長兼薬剤師の眞田昇磨28歳が配属。そして、入社7年目の総務部の部員・松久奏己29歳が、3ケ月の研修を経て医療事務の担当者として、彼らとともに働き始めることになります。自らを「打たれ弱い人間」と自覚している奏己。新たな部署で、社員の健康増進に貢献することに自分の存在意義を見出していくことができるのでしょうか? 

 

[おもしろさ] 「社内に病院機能を組み込むべきだ」

「社内に病院機能を組み込むべきだ」という、40歳にして三代目社長に就任した三ツ葉正和氏の大胆な発想から始まった総務部のクリニック課と薬局課。「産業医」とは異なって、「市に届け出をして、『医療機関』として認められた『社内部署』です。検査、診断、治療はもちろん、薬局課もあるので処方も行え」るのです。社内で「会社員医師」の診察を受け、薬がもらえるって、とても便利ですね。本書の特色は、「会社病」と称されるように、働いている人に特有な健康面や身体面での困りごとの数々への対処法が描かれている点にあります。また、病気に対する予防や体調不良との向き合い方に気づかされるところも、読みどころのひとつになっています。医師の方から社員に対して働きかけ、病気や健康管理に関する情報を伝え、福利厚生につなげていこうとする場合、いかなることに配慮しながら進めるべきなのか、そのようなことを示唆してくれる「ケーススタディ」になりえる作品ではないでしょうか。

 

[あらすじ] 「おはようございまーす。クリニック課の回診でーす」

「人と競わず、争わず、かかわらず、なるべく魂の量がすり減らないようにすること。そうすれば、ストレスは最小限で済む。手に入れる物は少なくていい。その代わり、失う物も最小限にすること」。そのような考えの持ち主である松久奏己。総務部クリニック課と薬局課への異動は、とてつもなく大きい戸惑いと不安を伴うものでした。しかも、医師の森は、イケメンだが、かなりの「変わり者」。薬剤師の眞田の方は「整ってはいるものの、チャラ系ホスト顔」「元気いっぱい」ときています。最初の仕事は、社内回診。社員たちの好奇のまなざしのなか、各部署を回っていくのです。「おはようございまーす。クリニック課の回診でーす」。「いかがですか、お体の調子は」。「二酸化炭素濃度は1000ppmを超えているので、イエロー…。倦怠感、眠気、頭痛、耳鳴り、息苦しさなどを感じても不思議ではない」と、換気を促すことも。堂々と言うべきことを指摘していく森医師と眞田薬剤師。他方、奏己にとっては、緊張と驚きと恥ずかしさの連続。同じ日の午後、クリニック課にやってきて、出張で病院に子どもを連れていけなくなった女性社員。「息子の薬を出してほしい」という要望に対しては、いろいろ質問をしたあと、即座に「出しましょう」と即決する森。総務部クリニック課の物語がスタートします!