「お仕事いろいろ(3)」の第八弾は、行成薫『稲荷町グルメロード』(ハルキ文庫、2021年)。東京から少し離れた田舎町「あおば市」。同市の「サンロードあおば・稲荷町商店街」が醸し出す雰囲気はもはや一昔前のもの。「ゾンビロード」と称されるほどにさびれた商店街と化しています。あおば市が音頭をとったプロジェクトである同商店街再生を主導することになったアドバイザーの瀧山クリスと、彼のアシスタントとなった大学生の御名掛幸菜の行動・活躍が描かれています。「グルメ」を軸に商店街を活性化しようというプランの策定から始まり、具体的なアクション、プランに消極的な商店街の住民たちとの対峙など、興味深い叙述が満載です。商店街再生・活性化を考える際、大いに参考にできるコンテンツです! 続編に、『稲荷町グルメロード(2)Summer has come』があります。
[おもしろさ] 「ごまんといる」大学生が挑戦する中で変わっていく!
本書の最大のおもしろさは、いくつもの壁を乗り越えながら、稲荷町商店街を「グルメロード」に変えていこうとする瀧山クリスと御名掛幸菜の懸命な取り組みの姿を描き出している点にほかなりません。また個人的には、ごく普通の大学生である御名掛幸菜がその過程で徐々に社会人として、働くという意識を熟成させていくプロセスもまた、興味深いものだと感じています。では、彼女に代表されるような「ごまんといる」大学生像とは、どのようなものなのでしょうか? 再構成すると、次のようなイメージが浮かび上がります。今までは両親の庇護のもとで何不自由なく暮らしてきた。大学の成績はおおむね良好。授業も真面目に出席。特に問題を起こしたことはない。趣味らしい趣味もないし、特技らしい特技もない。バイトはそれなりに頑張っているけれど、就職活動に役立つものではなさそうだ。将来やりたいことがわからない。総じて、取り立ててアピールできるセールスポイントがまったく見当たらないのです。だから、就職活動は不安だらけ。社会に出るのがコワイ……。そのようなところでしょうか。ところが、そんな幸菜が、商店街の再生プロジェクトに身を投じるなかで、隠された自分自身の力を発見し、いろいろなものを感じ、変化していくのです。読んでみたくなりませんか!
[あらすじ] 商店街には、ゾンビなどいない。まだ生きている
大学三年生になった御名掛幸菜。就職活動に役立つ情報がないかとスマホで検索しているとき、引っかかったのが、「求む! 若き感性!」というタイトルのページ。お客さんが減った商店街の活性化のために、あおば市が「アドバイザー」を募集しているものでした。市の「まちづくり振興課」と連携し、若者目線で商店街のトータルプロデュースと既存店舗の経営改善を任されると、説明されています。「報酬・年額2500万円」は、とても魅力的。そのうえ、同市は、父の出身地。いまも祖父母の家があり、年に一、二回遊びに行っているところ。一念発起して応募を決定。プロフィールと小論文による書類審査=一次審査は、見事に合格。1ケ月後の二次審査では、あおば市役所にて担当者の前でプレゼンテーションが行われることになっています。プレゼン用の資料作成は、大変でしたが、「自分のアイデアが採用されて、商店街が盛り上がっていくのを想像するとわくわくする。人に喜んでもらって、なおかつお金も手に入る。そんな素晴らしいことがあるだろうか」と思えてきたのです。ところが、二次審査は、当然のことながら、若者によるぼやっとしたアイデア発表会ではなく、本気の「ビジネスの場」だったのです。「稲荷町グルメロード」プロジェクトを提案したものの、幸菜は不採用。二次審査に残った5名のうち、採用されたのは、瀧山クリスでした。失意の彼女の心の中には、「あなたは、実際に稲荷町商店街をご覧になったかしら」という、若木戸はるかという当選したばかりの女性市長の一言がもたらした「いやなもやもや感」がくすぶり続けていました。実際に商店街を歩いた幸菜。「得体のしれない」雰囲気の喫茶店「カルぺ・ディエム」を見つけます。勇気を出して中に入ると、まるで時間が止まってしまったかのような居心地の良さを感じました。ふと、「わたしは今まで、自分の意志で人生を歩んできたわけじゃなくて、ただただ時間に転がされて生きてきたのかな」。これまで考えたこともない、そのような感情を持つことに。そのとき、新たに入ってきた男性に声を掛けられます。「偶然だね」「あ、はい」。もらった名刺には、「瀧山クリス 株式会社スリーハピネス代表」と記されていました。二次審査における彼のプレゼンも、商店街に飲食店を呼び込み、一種のアミューズメントパーク化するというアイデアだったのです。二時間ほど話をした二人は、さらに近くにある、造り酒屋の名残を残した蔵を活用した酒屋「花むら」に移動。そこにいた地元の人たちに、クリスは、「東京の大学生で、僕と一緒にこの商店街を盛り上げてくれます」と、幸菜のことを紹介。そこで確認できたことは、商店街には、ゾンビなどいない、まだ生きているという厳粛な事実。かくして、ふたりの商店街再生・活性化のプロジェクトが動き始めたのです。

