経済小説イチケンブログ

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『火車』 - クレジットカードの落とし穴

生きていくために不可欠なものに「おカネ」があります。キャッシュレス化が進み、現金を使わずに生活する人が増えてきたのは事実。しかし、銀行預金や電子マネーもまたお金の一形態。その重要性が低下しているわけではありません。おカネは、経済活動の潤滑油。人と人を結びつけたりする反面、離反させたり、トラブルを引きこしたりするので、多くのドラマを生み出す源泉にもなっています。今回は、「クレジットカード」および「宝くじ」を素材にして、おカネについて考えてみたいと思います。なお、本ブログ上では、2019年4月17~24日にも「おカネ」をテーマにした作品紹介を行っています。興味のある方はご参照ください。1994年2月5日に、テレビ朝日系列で放映されたドラマ『火車 カード破産の女!』(主な出演者は、三田村邦彦さん、財前直見さん、森口瑤子さん)の原作。

 

「おカネ」を扱った作品の第一弾は、宮部みゆき『火車(かしゃ)』(新潮文庫、1998年)。おカネの代用品にもなるクレジットカード。それによる自己破産の悲惨さ・怖さをミステリータッチで描き上げた、古典とでも言うべき作品です。クレジット地獄に陥ったある女性が、そこから這い上がるためにほかの女性になりすまそうとします。ところが、その女性にも、クレジットによる過大債務のために自己破産したという過去があったのです。本書は、主人公の刑事・本間俊介がそうした事の真相を明らかにしていくというミステリー小説です。と同時に、クレジットカードが持つ影響力を社会経済的視点から明らかにした経済小説でもあります。1980年代におけるクレジットカードの実態、自己破産の仕組みなどがよくわかります。火車とは、「生前に悪事をした亡者を乗せて地獄に運ぶ」クルマのこと。山本周五郎賞受賞作。初刊本は、1992年に双葉社から刊行。

 

[おもしろさ] 他人の「戸籍を乗っ取り、入れ替わる」

一昔前なら、「夢」とあきらめざるを得なかった高額商品の買い物も、いまではクレジットカードさえあれば簡単に実現してしまいます。しかし、そこには大きな落とし穴が待っているのです。カードによる買い物も借金。返済しなければならないからです。それなりに所得があって、返済できるなら問題は生じません。ところが、もし金利の高い借金をしてしまうと、借金は雪だるま式に増えていきます。気がついたときには、もはや尋常の手段では返済できない額に達してしまうことに。その結果、自己破産になるケースもけっしてまれではありません。とはいえ、自己破産を経験した女性の苦悩、普通の生活を取り戻したいという渇望は、半端なものではありません。本書のおもしろさは、ただ「幸せになりたかっただけ」の女性がクレジットカードで買い物を繰り返し、債務を抱えて破産した挙句、他人の「戸籍を乗っ取り、入れ替わる」ことで人生をリスタートようとした女性の壮絶な生き様を浮き彫りにしている点にあります。

 

[あらすじ] 事態は予想だにしなかった方向に

強盗犯の改造拳銃で膝を撃ち抜かれてしまい、休職を余儀なくされた刑事の本間俊介。彼のもとを訪ねてきたのは、銀行マンの栗坂和也29歳(亡くなった妻・千鶴子の親戚)。栗坂は、消えてしまった婚約者の関根彰子28歳を探してほしいと懇願します。和也の話を総合すると、彰子は天涯孤独の身の上。二人で買い物をした際、彼女がクレジットカードを一枚も持っていなかったことを知った。そこで、カード会社の知り合いに頼んで、クレジットカードを作ってもらおうとすると、彼女の名前がブラックリストに載っていることが判明。クレジットカードを持ったことがないと言っていたにもかかわらず、クレジットカードの使い過ぎで、返済できないほどの債務を抱えていた彰子。自己破産をしたようだと言われたのです。不思議に思った栗坂は、そのことを彰子に尋ねてみたが、彼女はただ青ざめるだけ。その直後に、いなくなってしまったのです。こうして、本間俊介の関根彰子探しがスタート。やがて、本間は、関根彰子という女性がまったく別人であるという事実を突き止めます。もし「破産の件を調べられると、自分が身分を偽っていること、本当は関根彰子ではないことがバレてしまうから、すぐに逃げ出したというわけ」だったのです。そして、事態は予想だにしなかった方向、十中八、九の確率で殺人事件になりそうな形で進んでいくことになります。本物の関根彰子は、運命の火車から降りようとし、一度は降りたのですが、「彼女に成り代わった女(新城喬子)は、それと知らずにまたその車を呼び寄せた」のでしょうか!