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『ショート・セール』 - 因縁の悪徳経営者に立ち向かう投資ファンド副社長

「株」を扱った作品の第三弾は、楡周平『ショート・セール』(光文社、2023年)。悪質な手口で企業を食い物にするライス・エバンスと鳴島のコンビ。ありとあらゆる手段を駆使して彼らの悪だくみを阻止し、しかもそれをビジネスチャンスととらえる投資ファンドの樋熊令と牛島真吉のコンビ。両者による攻防劇は、実にドラマティック! なお、ショート・セールとは、株価が下がることを予測して利益を得る手法。適切に活用すれば、大きなリターンが期待できる反面、リスクもまた大きいとされています。

 

[おもしろさ] 対決の構図はシンプルでも、対決の中身は複雑多岐! 

業績が不振の企業に目をつけて、トップを送り込む。合理化とリストラを強行して、一時的に改善したように見せかける。株価を上げたあと、逃げてしまう。このようにすれば、莫大なマネーを手に入れることができるのです。とはいえ、一歩間違えば、奈落の底に突き落されるリスクがあることもまた、事実。本書のおもしろさは、一歩も間違えないように悪知恵を働かせようとする人たちの考え方・行動・「腕の見せ所」と、その動きを阻止することで、相手を打倒し、かつ自らもビジネスの糧にしようとする投資ファンドの行動・考え方が見事に浮き彫りにされている点にあります。

 

[あらすじ] パシフィックでの父の汚名をオリエンタルで娘がそそぐ

自動車メーカー「パシフィック・モーターズ」は、かねてより放漫経営が続き、危機に陥っていました。そんなとき、同社の再建を託され、社長に就任したのは、日系三世のアメリカ人である鳴島でした。強引な彼の合理化・リストラによって、表面的には再建が果たされたかのように思えたのが3年前。次の社長に指名されたのが、工場や不採算部門の整理で陣頭指揮を執ることを命じられ、忠実に任務を全うした信郎でした。樋熊令の父親です。しかし、その直後、業績は急降下。株主たちからの罵声で、信郎はメンタルをやられてしまいます。もっとも、パシフィックをめぐる上述の動きには、裏で筋書きを描き、それを実践し、大もうけした人物がいたのです、その人物こそ、鳴島とライス・エバンスという男だったのです。他方、樋熊令38歳は、東京に本社を置く投資ファンド「ウシジマ・ヒクマ」(従業員数15名)の副社長を務めています。運用資金800億円超というのは、高い運用実績を誇る牛島真吉社長・共同経営者の存在があるからです。ユニークな特色として、幹部社員を除けば、いずれも国の内外を問わず有名企業にはまず採用されないような「くせ者集団」であることが挙げられます。典型例は玉木幸輔。高校に進学すると同時に早くもクラブ通いを始めたという飛び切りの遊び人であり、「飛び切りの情報通」なのです。そんな令のもとに飛び込んだニュースに、エシプロン社のCEOであるジム・ライスが、電気自動車の開発に遅れをとり、業績が低迷している自動車メーカー「オリエンタル」の社長に就任するというものがありました。ライスもまた、鳴島と同じで、「不振に陥った会社の業績を、短期間のうちに回復させる、いや、回復したように見せかける術を熟知している」人物だったのです。その情報に、「パシフィックで甘い汁を吸った連中が、もう一度同じことをやろうと目論んでいるじゃないかしら」という悪い予感を感じてしまった令。一時的に黒字に転じさせたあと、頃を見計らって、高値で売り抜ければ、莫大なマネーが手に入る。後に残るのは、抜け殻になったオリエンタルということになるのです。そこで、牛島と樋熊の両人が、ライスの企みをつかみ、ビッグチャンスに変えようと挑むことになります。それはまた、「父の敵討ち」という側面もあったと言えるわけです。やがて、オリエンタルには、中国の企業とマネーも絡んでくることも判明することに… …。