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『神去りなあなあ日常』 - 山村で働く

これまで特定のテーマを決めず、さまざまな仕事・職業を対象にしたお仕事小説を紹介する機会が3回ありました。一回目は2025年2月6日~2月27日二回目は同年5月29日~7月10日三回目は2026年1月15日~3月12日でした。四回目となる今回は、八つの作品を紹介します。いずれも、それぞれの仕事の醍醐味にも迫ることができる秀作ぞろいです。

 

「お仕事いろいろ(4)」の第一弾は、三浦しをん『神去りなあなあ日常』(徳間文庫、2012年)。過疎化が進む農村を舞台にした小説はそれなりにあるわけですが、過疎化がさらに深刻な山村を舞台にした作品となると、皆無に近いのではないでしょうか。そもそも、日本の山村には、もはや爺さんと婆さんしかおらず、若い人の姿を見ることはまれとされています。近い将来、少なからぬ山村が消滅することが危惧されています。そうした現状のもと、本書は、山村・林業を扱った数少ないお仕事小説の代表作となっています。1年前に高校の担任の「計らい」で、携帯も通じない「神去(かむさり)村」(三重県中西部)に放り込まれてしまった横浜育ちの青年・平野勇気18歳。彼は、なにを感じ、どのような経験をするのでしょうか? 興味津々の物語です。2014年に公開された映画『WOOD JOB!(ウッジョッブ)~神去りなあなあ日常~』(監督は矢口史靖さん。主演は染谷将太さん、出演は長澤まさみさん、伊藤英明さん)の原作。続編に『神去りなあなあ夜話』 があります。

 

[おもしろさ] 都市生活者の「違和感」VS山村生活者の「当たり前」

神去村の住民たちの口癖に、「なあなあ」があります。「いい天気ですね」「「ゆっくり行こう」「まあ落ち着け」といったニュアンスのようです。わたしがこの本に注目したのは、言うまでもなく林業を生業とする山村における人々の生活や仕事を描いた林業小説であるという点にあります。しかし、本書の解説者である角幡唯介さんが指摘されているように、「プラスアルファのおもしろさ」があることもまた、大きな魅力になっています。わたしたちの生活は、ときとして人間の力ではどうすることもできない「自然の力」(例えば、地震、津波、日照り、川の氾濫、山火事、雪の重みで木が損傷することなど)によって、ズタズタに切り裂かれたり、甚大な被害を受けたりすることがあります。「山村では、そういう自然のどうしようもなさの中で生活自体が営まれているため、常識や思考の展開もそのどうしようもないことが前提となって組み立てられている」ところがあるのです。そうした「自然に対する畏怖のような感覚」は、かつては日本人の誰しもが根っこで共有していたのですが、いまの都市生活者にとっては、「非科学的」もしくは「古いもの」としてしか映らないものに変わってしまいました。本書では、都市生活者の目線から山村で生計を立てている人たちの「違和感」を浮き彫りにしたうえで、その中身をもう一度再認識してみてはどうかという問題提起がなされているように思われます。

 

[あらすじ] 森を守るには、人による手入れと植林が不可欠! 

「高校を出たら、まあ適当にフリーターで食っていこうと思っていた」平野勇気。「やりたいことなんかなかったし、やりたいことが見つかるとも思えなかった」のです。ところが、卒業式の終えて、教室に戻ったら、担任の熊やん(熊谷先生)から、「おう、平野。先生が就職先を決めてきてやったぞ」と言われることに。どうも、林業への就業を条件に、国が助成金を出している「緑の雇用」という制度に、熊やんが勝手に応募して認められたようなのです。神去村に向かう途中、名古屋で新幹線を降り、近鉄で松阪まで行き、ローカル線に乗り換えて終点に着くと、金髪でチンピラみたいな風貌のヨキ(飯田予喜)が近づいてきました。「平野勇気って、あんたか… …。ケータイ持ってるか」と言うやいなや、携帯から電池パックを外し、茂みのほうにぶん投げました。ヨキに案内されて辿り着いた神去村には、勇気の想像を絶する驚きの数々が待ち受けていたのです。森林組合での20日間を経て、中村林業(従業員は20名)で働くことになった勇気。居候先はヨキの家でした。初日、斜面を派手に転げ落ち、死ぬかもしれないという怖さを味わったり、なにもできない自分を情けなく思ったりしました。と同時に、「もうちょっとここで頑張ってみようかな」という気持ちを感じたのです。本格的な春を迎え、いろいろな花が咲き誇るようになると、神去村の容貌は、モノクロにくすんでいた画面から勢いのある鮮やかな画面へと変わりました。森って、なんだか自然のままというイメージがあるかもしれませんが、人が入念に手入れをし、きちんと植林していかないと、山は守られないという厳粛な事実! やがて、勇気は、神去村とそこに住む住人たちの魅力を見出していくようになっていきます。