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『切れない糸』 - クリーニング店の仕事とは? 働くことの意味とは? 

「お仕事いろいろ(4)」の第三弾は、坂木司『切れない糸』(創元推理文庫、2009年)。父親の新井和夫54歳が急死したため、家業のアライクリーニング店を継ぐことになった新井和也22歳。同じ商店街の喫茶店「ロッキー」で働く、大学の友人でもある沢田直之や、同僚のアイロン職人・シゲさん(茂田鉄二、年齢不詳)など、周囲の人たちに支えられながら成長していく姿を描いた五つの短編が収録されています。クリーニング店の仕事とはどのようなものなのか? 「働く」ということの意味はどこにあるのか? 「成長する」とはどういうことなのか? そういった点について考えさせてくれる連作短編集です。五つの話では、それぞれに悩み・問題を抱える人物が登場。和也と沢田のコンビが解決への道を照らしてくれます。

 

[おもしろさ] バイト気分から脱し、プロ意識を持つようになるには

新井和也は当初、クリーニングを「たかが洗濯」と思っていた、つまりなめていたのです。本書の魅力は、第一に、そうした「ただの手伝い=アルバイト気分」から脱して、「本業=プロフェッショナル」という意識を持ち始め、「仕事に対する責任を自覚していく」までの過程と心の変化がリアルで、わかりやすく描かれていること。その変化を換言すれば、「消費者の視点」だけで生活していた青年の心の中で、サービスという商品を供給する「生産者の視点」を感じていく過程であると表現することができるわけです。第二に、読者に寄り添った著者のやさしいセリフを通して、シューカツ中の人にも、仕事の本質が伝わっていくこと。第三に、なにもやっていないうちに、仕事に見切りをつけてしまいがちな若い人たちに対しては、働くことへの「扉」を開けてくれること。

 

[あらすじ] 知る前に辞めてたら、どの仕事についても同じだ

第一話「グッドバイからはじめよう」では、クリーニング店で働き始めた和也の姿が描かれています。最初は、ちょっとした不注意から発生するミスばかりで、「こんなはずじゃなかった」とつぶやいてばかりの毎日。「やってみてわかったけど、向いてないんだ」と和也。そんな彼に、同僚のシゲさんが言います。「仕事なんてのは、しばらくやってみないと本当のつらさや楽しさが味わえないものだからな。それを知る前に辞めてたら、どんな仕事についたって同じだ」と。そんな和也が、ちょっとミステリアスと思える顧客とのふれあいを通して、クリーニング業という仕事に秘められた「本質」の一端にも触れるなかで、「もう少しやってみよう」と前向きな気持ちに変わっていくのです……。ほかにも、四つの短編が収録されています。