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『明日の子供たち』 - 児童養護施設で働く児童指導職員のリアル

「お仕事いろいろ(4)」の第五弾は、有川浩『明日の子供たち』(幻冬舎、2014年)。児童養護施設「あしたの家」では、身寄りがなかったり、虐待や育児放棄を受けたりといった理由で、親と一緒に住めない90人の子供たちが暮らしています。スタッフは、保育士も含めて二十数名。24時間シフトで勤務しています。ソフトウエア会社の営業マンを経て、先生と呼ばれる児童指導職員に赴任したばかりの三田村慎平26歳が主人公。熱意はあるし、気立ても優しい青年なのですが、最初は、空回りばかり……。本書は、秘密のベールに包まれ、ほとんど知られていなかった児童養護施設の実態、そこで働いている人たちの心中、暮らしている子供たちとの関係、さまざまな問題を抱えている子供たちの内面などをリアルに描き出した秀作です。

 

[おもしろさ] 愛情を持って接するか、仕事として割り切るか? 

「ある日突然折れるんですよ。やっぱり、きつい仕事ですから」。特に、「頑張りすぎちゃう人はまずい」。確かに、急に限界がきて辞めてしまう人が多く、「どの施設でも、三年も勤めたら古株」と言われているほどに、離職率が高いのが、児童養護施設の特色です。なぜでしょうか? 児童指導職員の一日の仕事でかなりの比重を占めるのが、洗濯や掃除、買い物などの家事です。中学生以上には洗濯と居室の掃除を自分でやらせる生活訓練を始めるのですが、小学生以下の児童の分はすべて職員が受け持つことになっています。また、周囲の偏見や差別を感じながら育ってきた子どもに対する指導や「距離感の取り方」も実に大変なのです。例えば、「過剰に甘えてきたり、逆にすごく反抗してみたり」など、「大人を試そう」とする子供たちに振り回されたり、それに動揺しないように心がけることが求められます… …。家族と接するときのように愛情を持って接するのか、それとも仕事として割り切るのか? 「家に帰れば当たり前のように両親、家族がいて、その家の子供として当たり前のように愛してもらえる。育ててもらえる」。そうした世間の「基準」がまったく通用しない世界を垣間見ることで、読者は、大切なことに気づかれるのではないでしょうか! 「児童養護は社会の負担ではなく、(明日に向けての)投資であるはずなんです」という言葉に、著者の想いが凝縮されていることを忘れずに指摘しておきたいと思います。

 

[あらすじ] 「ここは普通の家じゃないし、私たちは親にはなれない」

希望にあふれて「あしたの家」に着任した三田村慎平。玄関にある靴箱を見ると、一つのボックスに何足もの靴が押し込まれていました。なかでも、低学年男子用と思われる区画はまるで「完全なる無法地帯」のような乱雑状態。「(子供たちの)不自由な生活を思うと何とも忍びない」。三田村は、靴がこぼれ落ちそうになっているボックスを片付け始めました。すると、後ろから、「何やってるの」という声が。施設職員の和泉和恵です。そして、「勝手なことしない。……やっと靴箱の中に靴を入れるようになったの。担当の先生が毎日毎日注意して、やっと……。今度は靴箱の中を整頓しなさいって毎日注意しなきゃいけないの。誰かがやってくれたら、絶対に自分でやるようにはならない」。それを聞いて、「でも。かわいそうじゃないですか」と言う慎平に対して、「ここは普通の家じゃないし、わたしたちは親にはなれない。わきまえて」と和恵。言い負かされた不満が彼の胸の中をぐるぐる渦巻きます。「確かにここは普通の家ではない。職員も親にはなれない、だが… …。ここしか寄る辺のない子供たちに優しくしてやれるのは、ここの大人しかいないじゃないか。子どもに必要なのは厳しさだけじゃないだろう。そうでなくとも世間は施設の子供には冷たいのに… …」。どちらの言い分にも、納得させられるところが含まれていると思います…。こうして、慎平は、その和恵の補佐役として、「明日の家」における第一歩を歩み始めることに。高校2年生の谷村奏子(通称カナ。母子家庭で育ち、母親の育児放棄が発覚した小学校3年生の時から施設で暮らしている。「成績も良好で職員との関係もいい」という「問題のない子供」の典型例)をはじめ、主に4人の子どもたちとの関わりを軸にした五つの話から構成されています。