「お仕事いろいろ(4)」の第六弾は、日明恩『ロード&ゴー』(双葉文庫、2012年)。消防車と救急車。いずれも、119番通報に基づいて出場する緊急車輛です。しかし、両者には、業務内容はもちろんなのですが、求められる運転技術にもかなりの違いがあるようです。元暴走族という過去を有する消防車機関員の生田温志。入庁してから15年のベテラン運転手で、「周囲も認める熟達した運転技術」の持ち主。2ケ月前の異動で、慣れない救急車に乗ることになります。ある日、彼が乗る救急車(乗務員は、隊長の筒井圭一、機関員、救急隊員の森栄利子の三名)がジャックされてしまいます。次々に発せられる犯人たちの理不尽な要求に対する生田たちの対応は? 犯人はなぜ、救急車を狙ったのか? 救急隊員の仕事の難しさ、救急車を要請する人たちのさまざまな事情、救急体制に潜む問題などがあぶり出されます。なお、「ロード&ゴー」という用語は、重篤なケガを負った患者を一刻も早く病院に運ぶための処置を意味します。
[おもしろさ] 救急車ジャックが巻き起こすハラハラドキドキ
本書のメインのおもしろさは、救急車ジャックという特異な事件の描写です。生田たちの苦難、犯人との駆け引きなど、手に汗にぎる場面の連続です。と同時に、そうした「非日常的な事件」が起きてもブレない、救急隊員の「日常的な業務に対する心構え・行動パターン」が浮き彫りにされている点もまた、興味深いものになっているのではないでしょうか!
[あらすじ] お仕事小説からミステリー小説への変転!
東京の恵比寿にある第三方面渋谷消防署恵比寿出張所が舞台。筒井隊長、森救急隊員の両名とチームを組んで救急車を運転する生田。①通報者の要請を受けて救急車が出場するまでのプロセス、②通報・要請する人の事情に応じて臨機応変に対応する救急隊員の行動と心の動き、③救急隊員の勤務状況、④救急車の運転手が配慮しているさまざまな事柄、➄搬送先の病院選定の難しさや病院とのやり取りなどが、ストーリー展開のなかで述べられていきます。このあたりの叙述は、まさにお仕事小説ならではのものと言えます。ところが、午後6時34分頃、路上に倒れて血を流している男性(のちに悠木という名前が判明)を発見し、車内に収容した直後から、ミステリー小説の雰囲気を漂わせるように、大きく変転。悠木が、「動くなっ」と声を響かせたあと、森の喉に刃物を突き付け、「俺の言うことを聞け。聞かなければ、こいつを殺す」と怒鳴ったのです。それだけではありません。非通知のテレビ電話を通して伝えられた、車外にいる「犯人」の声にしたがえば、悠木もまた、家族を人質にされ、「犯人」の言うことを聞かない場合は、自分の家族の命はないと脅されていたからです。しかも、悠木が車内に持ち込んだバックには、4キロのプラスティック爆弾が入っていると告げられたのです。「さあ、ゲームを始めるぞ。まずは大田区の蒲田総合病院に向かってもらう……。7時16分がリミットだ。さあ、行け」と「犯人」。そのうえ、「80キロ以上出すな。絶対に止まるな。高速を使うな。サイレンもランプも消すな」という条件も。果たして、生田たちは、犯人の要求に応えることができるのでしょうか?
