経済小説イチケンブログ

経済小説案内人が切り開く経済小説の世界

『図書室のキリギリス』 - ユニークでパワフルな学校司書

「お仕事いろいろ(4)」の第七弾は、竹内真『図書室のキリギリス』(双葉文庫、2015年)。幅広い分野の本を読み、ブログにまとめるのを習慣にしていた高良詩織。バツイチになったのを機に、直原高校の図書館(通称図書室)で、学校司書として働き始めました。詩織は、慣れない仕事に戸惑いをみせながらも、生徒たちや同僚たちとの交流のなかで、徐々にユニークで、パワフルな学校司書として成長を遂げていきます。学校司書という仕事の難しさと楽しさ、さらには読書を通して自分たちの世界を広げていく高校生たちの生き生きとした姿、「本を読んで楽しいと思ったり、心が震えたり、新たな知識に興奮したりといった」本の魅力などが浮き彫りにされています。

 

[おもしろさ] 「物に刻まれた思いを感じることができる」

本書のおもしろさとして指摘できるのは、主に三点。一つ目は、詩織が働くことになった直原高校の甘木校長、小野寺教頭、山城事務長、若森教諭(司書教諭)といった人たちの図書館に関する考え方・向き合い方の違いがよくわかること。二つ目は、図書委員を中心とする生徒たちが読書を通して、本の魅力に目覚め、自分たちの世界を育んでいく様子、換言すれば、「本を通して広がっていく世界」が生き生きと描かれていること。三つ目は、小さい頃から「物に刻まれた思いを感じることができる」という、詩織には備わった不思議なパワーが彼女の仕事にも大いに役立てられる様子が描写されていることです。「自分で読みたい本を探そうって思う代わりに、誰かにすすめたい本を見つけてみようと考えてみてね」「丸々一冊、何が何でも読み切ろうって思わなくていいの」「とにかく本を手に取って、その本から何か気になるフレーズを一つ探してみるの」……。生徒たちに対するそうした詩織の語りかけも、あなたの心に響くのではないでしょうか! 

 

[あらすじ] 「図書館業務・引継ぎ事項」から始まった! 

夫が失踪してから3年。法定離婚事由が成立して離婚が決まったことが契機となり、職探しを始めた高良詩織。そんな彼女に、直原高校の図書館で働いてみないかと声をかけたのは、学生時代からの友人で、県立高校の音楽教師を務めている井本つぐみでした。詩織は、司書の資格を持っていませんでした。が、学校司書には「司書や司書教諭の資格はいらない」ということで、面接を受け、採用されたのです。3月いっぱいは臨時的任用職員という形で1ケ月間の試行期間に挑みます。そして問題がなければ、最長5年の任期付採用職員として働くという道筋ができたことになります。仕事のやり方がまったくわからず、不安になっていた詩織を導いてくれたのは、前任の司書・永田さんが残してくれた「図書館業務・引継ぎ事項」と記された手引書でした。何気なくその冊子を手にとった途端、息を飲みます。「指先から、誰かの感情が流れ込んでくる。その冊子に刻まれた強い思い」が伝わってきたのです。「もやもやと乱れていた気持ちだった。そこにすっと、ひとすじの光が通る… …。それは多分、迷いの中に何かを決意した人の感情だ」。そのときもまた、自分に備わった不思議な力を感じ取った詩織は、前任者から託された図書館に対する深い情熱と思い入れを感じつつ、事細かく、しかも親切に書かれた手引書にしたがって働こうと決意。そのあと、図書館にやってきた校長は、楽しそうに微笑みながら『モーフィ時計の午前零時』という本を寄贈したいと申し出ます。ただし、①寄贈者の名前は「円花蜂」にすること、②生徒には寄贈した人物は隠しておくこと、③囲碁将棋部の生徒が来たら、その本をそれとなく勧めて欲しいということが言い添えられたのです。ちょっと不可解とも思える申し出。でも、詩織はその初仕事に笑顔で取り掛かります、「成り行きに流されるように就いた職だが、どうせなら張り切って働きたい」。