「下請け企業を扱った作品」の第二弾は、清水一行『系列』(集英社文庫、1995年)。日本の自動車メーカーはいわば「組立メーカー」。傘下に多くの下請け企業を抱えています。そうしたピラミッド型の組織のなかで、自動車メーカーは、下請け企業の株を20%以上保有し、殺傷権を握っていることも。本書が明らかにしているのは、系列部品メーカーにおける役員の年齢制限の押し付け、社長・重役の決定への関与、果てしなきコスト削減の要求など、親会社の理不尽な要求に翻弄される下請け会社の苦悩です。日産を連想させる「東京自動車」と、市光工業を連想させる従業員3600名・資本金80億円の自動車用ヘッドランプメーカーである「大成照明器」を素材に、1987~91年における系列の実態が余すところなく描かれています。1993年にNHKで放映された土曜ドラマ系列』(主演は、三浦友和さん、西城秀樹さん)の原作。翌94年に続編『系列II』も放映。
[おもしろさ] 親会社にとっての「永遠なるコストダウンの保証」
親会社である自動車メーカーは、下請け会社に継続的に部品を発注し、出資による資金援助や人材派遣による技術指導を行うことにより、密接な利害紐帯を作り上げています。一種の「運命共同体」と言えるかもしれません。と同時に、系列部品メーカーに対して、親会社は、あれやこれやの干渉を行います。合理化を推進したり、採算の悪化をカバーしたりするため、系列部品メーカーに過酷な値下げ要求を行うこともしばしばです。系列こそが親会社にとっての「永遠なるコストダウンの保証」と言われたのは、そのためです。ただ、系列部品メーカーが反旗を翻して、系列から離れてしまうと、親会社の方も困ります。そのため、親会社と子会社との間には、常に緊張の糸がぶら下がっていたわけです。本書のおもしろさは、そうした両社の微妙な関係をリアルに再現している点にあります。
[あらすじ] 「うちから社長を送ってやろうか」
1987年4月の初旬、大成照明器社長・浜岡茂哉とその長男で海外事業部長をしている浜岡祥吾の二人が、東京自動車の副社長に呼びつけられ、「うちから社長を送ってやろうか」と言われます。浜岡茂哉が、東京自動車が決めた系列会社における社長の定年である68歳になろうとしていたからです。現状でもさまざまな制約を受けており、そのうえ社長まで送り込まれたら、大成照明器は、完全に自主性を喪失してしまう。それを恐れ、いずれは祥吾を後継社長にしたいと考えていた浜岡は、申し出を拒否。同じ話は、一年半後に蒸し返されます。「どうしてもうちからの話が呑めないということなら、東京自動車としては今後大成に協力することはできないな」。最後通告ともとれる副社長の強い言い回し。再度の社長留任は困難と見た浜岡は、社内から立山錦一を選んで、社長に据え、自らは代表権を持った会長に就任します。ところが、二度に渡ってメンツを潰された東京自動車は、大成照明器のトップ人事工作に失敗した関連会社対策室長を更迭。巻き返しを図るべく、裏工作を行い、立山を抱き込み、91年2月に会長解任動議を行わせることに。最後にドンデン返しへの展望が盛り込まれているところに、系列子会社の自立性について一抹の光が感じられる叙述が盛り込まれているのですが……。