経済小説イチケンブログ

経済小説案内人が切り開く経済小説の世界

2024-07-01から1ヶ月間の記事一覧

『オリンピックの身代金』 - オリンピックを人質にして爆弾を仕掛けたワケ

「東京オリンピック1964を扱った作品」の第二弾は、奥田英朗『オリンピックの身代金』(上下巻、角川文庫、2008年)です。1964年10月、アジア初のオリンピックが東京で開催されました。それには、単に国際的なスポーツの祭典を日本で行うという以上の重みが…

【解説】『ヘルメースの審判』の解説を執筆しました

2024年7月25日、角川文庫から楡周平さんの経済小説『ヘルメースの審判』が出版されました。収録された「解説」では、①巨大総合電機メーカーのニシハマ(モデルは東芝)が危機に陥った理由、②そこから脱却するために提示される「ビジネスモデル」などに言及し…

『祖国へ、熱き心を』 - フレッド・和田勇と東京オリンピック

2024年7月26日開会式から8月11日閉会式の日程で開催されるパリオリンピック。その後、8月28日~9月8日にはパラリンピックが行われます。出場するアスリートたちやその関係者にとっては、待ちに待った瞬間が近づいています。前回の第32回大会は、2020年に東京…

『リコール』 - 隠そうとする経営陣 VS暴こうとする女性エンジニア

「自動車メーカーを扱った作品」の第四弾は、保坂祐希『リコール』(ポプラ文庫、2020年)。AI(人工知能)が未来社会を大きく変えていくと予想されている昨今、自動車のあり方もまた大きく変わっていくことでしょう。「ステアリングもアクセルペダルもブレ…

『安全靴とワルツ』 - 「工場のねーちゃん」から「本社のOL」へ

「自動車メーカーを扱った作品」の第三弾は、森深紅『安全靴とワルツ』(角川春樹事務所、2011年)。舞台はグローバルに事業を展開するオリオン自動車。主人公は高専の機械科を卒業し、技能職として同社に入った坂本敦子30歳。工場から本社への異動で、「工…

『巨大企業』 - モデルは「サニー対カローラ」の販売合戦! 

「自動車メーカーを扱った作品」の第二弾は、清水一行『巨大企業』(角川文庫、1995年)日本におけるモータリゼーションの黎明期に当たる1965年頃、自動車業界の覇者をめざし、不二と千代田の二大メーカーは、激しい攻防を繰り返していました。二番手メーカ…

『LEADERS リーダーズ』 - 国産自動車開発に人生をかけた人たちの情熱と苦悩

長きにわたって日本経済の屋台骨としての役割を果たしてきた自動車産業。いまでこそ、自動車は非常に身近な交通手段になっていますが、第二次大戦直後の時代にあっても、依然として外国から輸入した高額商品でした。いまで言うと、「超高級住宅・マンション…

『小説 談合 ゼネコン入札の舞台裏』 - 「元談合マン」が浮き彫りにした談合のリアル

「談合を扱った作品」の第二弾は、清岡久司『小説 談合 ゼネコン入札の舞台裏』(講談社文庫、1994年)。白鳳建設の「談合マン」である第五営業部長・立川が主人公。東京湾ウォーターフロントに建設予定の国立オペラハウス工事の入札指名をめぐり、建設族の…

『談合』 - 政治的謀略と比べれば、「談合会議の駆け引きなどはかわいいものだ」

国や地方自治体などが発注する公共事業。通常、業者の選定は「入札」によって行われます。しかし、その入札が実際にはきわめて形式的な「儀式」になっている場合があります。あらかじめ関係する業者間で「談合」が行われているからです。マスコミや世論の非…

『ちょっと今から仕事やめてくる』 - 心身ともに潰れそうになったとき

「ブラック企業を扱った作品」の第三弾は、北川恵海『ちょっと今から仕事やめてくる』(メディアワークス文庫、2015年)。心身ともに疲れ果てていたにもかかわらず、「辞める」と言う勇気もない青山隆。線路に飛び込もうとしたところを「ヤマモト」という、…