経済小説イチケンブログ

経済小説案内人が切り開く経済小説の世界

2019-01-01から1年間の記事一覧

『上流階級』 - 「百貨店の屋台骨」を支える外商部

「百貨店を扱った作品」の第三弾は、高殿円『上流階級 富久丸百貨店外商部』(光文社、2013年)。百貨店でのショッピングと言えば、店舗における接客を通した買い物をイメージするのが一般的。ところが、売り場ではなく、直接顧客に販売するという形もあるの…

『百貨の魔法』 - 百貨店は一期一会の魔法の舞台! 

「百貨店を扱った作品」の第二弾は、村山早紀『百貨の魔法』(ポプラ社、2017年)です。百貨店は、お客様を笑顔に、そして幸せにするための「魔法の舞台」。倒産の危機に瀕した百貨店で、店を守ろう、地元に愛され続けようと懸命に努力する人たちの姿、さら…

『花になるらん』 - モデルは百貨店・高島屋の創業前史

かつて、モノがまだ少ない時代にあって、多種多様な商品を陳列する百貨店は、まさに小売業界の雄にふさわしい存在でした。なかでも、高度成長期(1955-73年)には、多くの人に「素敵な暮らしの夢」を与えました。しかし、その後、顧客の求める商品の多様化…

『富士山噴火』 - そのときに起こる状況のシミュレーション! 

「災害を扱った作品」の第五弾は、高嶋哲夫『富士山噴火』(集英社、2015年)。富士山の大噴火がもたらす災害の様相が克明に描かれています。大噴火の結末に待ち受けている驚くべき富士山の新しい姿とは? 高嶋哲夫の作品を再度取り上げました。 [おもしろさ…

『ジェミニの方舟-東京大洪水』 - 中心気圧807ヘクトパスカルの超巨大台風

「災害を扱った作品」の第四弾は、高嶋哲夫『ジェミニの方舟-東京大洪水』(集英社、2008年)。中心気圧807ヘクトパスカル、最大風速77メートルという史上まれにみる超巨大台風が首都圏を襲えば、いかなる事態が引き起こされるのかを予測した警告の書。その…

『震災列島』 - 東海地震が引き起こす災厄の恐ろしさ

「災害を扱った作品」の第三弾は、石黒耀『震災列島』(講談社文庫、2010年)。最近の研究データに基づいて、もし東海地震が起きれば、いかなる事態が生じるのかを予測した警告小説です。東海地震の渦中、娘の仇を討つため、復讐計画を練り上げ、実行する男…

『小説帝都復興』 - 関東大震災の復興計画を主導した後藤新平

「災害を扱った作品」の第二弾は、岳真也『小説帝都復興』(PHP研究所、2011年)です。巨大地震が多くの建物を破壊する災害であることに、異論の余地はありません。ただ、巨大地震からの復興事業が被災地の再生に大きく寄与した事例があることもまた、歴史的…

『平成関東大震災』 - 地震との向き合い方、教えます! 

日本は、自然災害が非常に多い国のひとつです。太平洋プレート、フィリピンプレート、ユーラシアプレート、北米プレートがせめぎあうことで、大きな地震が起こる確率は非常に高いからです。毎年、勢力の強い台風が日本列島を通り、甚大な被害をもたらします…

『幸せの条件』 - 農業問題の「解決策探し」と自分の「生きがい探し」

「農業を扱った作品」の第四弾は、誉田哲也『幸せの条件』(中央公論新社、2012年)。農業活性化の方策として考えられている「異業種による農業への参入」や「エネルギー問題への貢献という農業の新しい可能性」が扱われています。また、「農業オンチ」の主…

『ストロベリーライフ』 - こんなに重労働なのに儲からない。なぜか? 

「農業を扱った作品」の第三弾は、荻原浩『ストロベリーライフ』(毎日新聞出版、2016年)。農業の未来をどうするのか? 農業はこんなにも重労働なのに儲からないのはどうしてなのか? 農家の子どもが家業を継ぎたくない理由は、どこにあるのか? そうした問…

『限界集落株式会社』 - 過疎化した農村の実情と再生の方向性

「農業を扱った作品」の第二弾は、黒野伸一『限界集落株式会社』(小学館、2011年)です。日本の農村がおかれている状況や再生の方向性を知ることができる作品。具体的には、組合法人による農業への参入という問題に焦点を合わせ、活性化の方策が模索されて…

『農ガール、農ライフ』 - 「空想的な将来像」から「現実的な将来像」へ

私たちの生命は、食べ物から栄養を取ることで維持されています。近年、その食べ物に対する関心が非常に広がっています。ところが、そうした食べ物生産の現場である農業のこととなると、多くの人は、まったくと言ってよいほど、知識を持っていません。日本の…

『極楽カンパニー』 - 定年でヒマを持て余していた男たちが始めた「開き直り」

「定年を扱った作品」の第五弾は、原宏一『極楽カンパニー』(集英社文庫、2009年)。会社べったりの生活に生きがいを感じてきた会社員にとって、定年とはいかなる意味を持つのでしょうか? ある意味、それは「生きがいの喪失」につながりかねません。この本…

『円満退社』 - 定年退職を迎える日に生じた人生最悪のピンチ

「定年を扱った作品」の第四弾は、江上剛『円満退社』(幻冬舎文庫、2007年)。円満に退社できれば、退職金をもらって、あとは自由な生活が待っている。そんな夢を描きながら、「最後の勤務日」を迎える銀行支店長。ところが、数々の不祥事が次から次へと起…

『ハッピー・リタイアメント』 - テキトーでOKという職場で真面目に働いた帰結が

「定年を扱った作品」の第三弾は、浅田次郎『ハッピー・リタイアメント』(幻冬舎、2009年)。定年を目前に控えた多くの人たちにとっての大きな関心事のひとつに、再就職先の確保という問題があります。本書の主人公は、地位も名誉も金もない55歳の二人の男…

『終わった人』 - 会社人生を全うしたとは感じていない男の「定年」とは? 

「定年を扱った作品」の第二弾は、内館牧子『終わった人』(講談社文庫、2018年)です。大手銀行で出世コースを歩むものの、子会社に出向・転籍され、達成感を得られぬまま定年退職を余儀なくされた男の葛藤が描写。舘ひろしさんと黒木瞳さんが出演し、2018…

『毎日が日曜日』 - これからは毎日が日曜日。さて、どうする? 

定年制度が一般化しているわが国。自営業を除けば、働いている人の大半が遅かれ早かれ定年を迎えます。それは「第二の人生」の始まり。労働者にとっては、「最大にして最後のドラマ」と言えるかもしれません。会社や組織のしがらみから解放されます。自由に…

『紙の城』 - 買収を企てるIT企業と阻止しようとする新聞社とのバトル

「新聞を扱った作品」の第四弾は、本城雅人『紙の城』(講談社、2016年)。新聞社を買収しようとするIT企業と、それを阻止しようとする新聞社の戦いが描かれています。と同時に、新聞業界の問題点と改革の方向性についても興味深い論点が提示されています。 …

『虚空の冠』 - メディアの覇権をめぐる過去・現在・未来

「新聞を扱った作品」の第三弾は、楡周平『虚空の冠』(上下巻、新潮社、2011年)。終戦後、新聞記者としてキャリアをスタートさせた渋沢大将という男が、新聞、ラジオ、テレビといった昭和のメディアをすべて手に入れたあと、人生最後のチャレンジとして、…

『小説 新聞社販売局』 - 全国紙の元記者が抉り出した業界の悪習とは? 

「新聞を扱った作品」の第二弾は、幸田泉『小説 新聞社販売局』(講談社、2015年)です。新聞社の販売部から見た新聞販売の最前線と担当者の苦悩にズバリ踏み込んだ作品。また、かつては「儲かる商売」と言われた販売店と新聞社との間に横たわっている歴史的…

『北海タイムス物語』 - 毎日決まった時間に読者に届ける-新聞人の誇り

朝起きて、真っ先にやること。それはその日の新聞に目を通すことです。いつも感心されられるのは、自宅で居ながらにして膨大な量の情報を得られること、そしてそれを可能にしている新聞づくりの仕組み・システムです。そうしたサービスを提供してくれる新聞…

『天涯の船』- 「松方コレクション」を創り上げた男女の数奇な運命

「絵画を扱った作品」の第五弾は、玉岡かおる『天涯の船』(上下巻、新潮文庫、2006年)です。浮世絵約8000点、西洋美術約3000点から構成される「松方コレクション」は、神戸の川崎造船所(現川崎重工)の初代社長で、莫大な富を築き上げた松方幸次郎が大正…

『ギャラリスト』 - 画商の使命は「芸術家の人生を創っていくことなり」

「絵画を扱った作品」の第四弾は、里見蘭『ギャラリスト』(中央公論新社、2015年)。日本の美術界の状況や画商の神髄を浮き彫りにした作品です。本書が刊行された頃の日本における純資産百万ドル以上の富裕層の人口は、アメリカに次いで世界第二位。しかし…

『冷静と情熱のあいだ』 - 忘れられない人が心の中に住み続けている

「絵画を扱った作品」の第三弾は、辻仁成『冷静と情熱のあいだBlu』(角川文庫、2001年)。ルネッサンス発祥の地であるイタリアの古都・フィレンツェ。近代的なビルが一切存在せず、まるで街全体が美術館のようです。そんな街を主舞台に、修復士の順正と、あ…

『写楽 閉じた国の幻』 - 「写楽探し」の常識を根底から覆す大胆な仮説

「絵画を扱った作品」の第二弾は、島田荘司『写楽 閉じた国の幻』(上下巻、新潮文庫、2013年)です。江戸時代に生まれた絵師・浮世絵師と言えば、葛飾北斎、歌川広重、喜多川歌麿、東洲斎写楽などの名前が浮かび上がります。そのなかで、写楽は、生没年不詳…

『楽園のカンヴァス』 - 真作か? 贋作か? 17年間の時空を超えた恋の行方! 

9月17日から10月1日まで、「食欲の秋」に因み、料理・食を扱った作品を5つ紹介しました。「食欲の秋」の次は、「芸術の秋」です。そこで、美術・絵画にまつわる作品を紹介していきます。経済小説を素材に「絵画を扱った作品」を解説するとなると、どのような…

『食堂かたつむり』 - 「食べられるもの」に対する「感謝」を込めた料理

「料理を扱った作品」の第五弾は、小川糸『食堂かたつむり』(ポプラ文庫、2010年)。10年間の都会での生活から山あいのふるさとに舞い戻った倫子がオープンさせた食堂の名は「かたつむり」。「食べられるもの」に対する「感謝」の念が込められた料理が提供…

『甘い罠 小説糖質制限食』 - 糖質が過剰に摂取される食生活に喝を入れる! 

「料理を扱った作品」の第四弾は、鏑木蓮『甘い罠 小説糖質制限食』(東洋経済新報社、2013年)。糖質制限食や化学調味料への過度の依存という切り口で、日本人が直面している食生活や味覚の危機と真正面に向き合った作品になっています。 [おもしろさ] 人類…

『星をつける女』 - 格付け判定をするには、これほどまでの労苦が

「料理を扱った作品」の第三弾は、原宏一『星をつける女』(角川文庫、2019年)。世界的な「食のガイドブック」の元格付け人で、シングルマザーの牧村紗英は、飲食店の格付け事務所を立ち上げます。けっして手を抜かずに仕事をやり遂げる優秀な格付け人・紗…

『鴨川食堂』 - 探します! 「思い出というスパイス」付きの料理と味を

「料理を扱った作品」の第二弾は、柏井壽『鴨川食堂』(小学館、2013年)です。京都にある鴨川食堂は、おいしい料理を出すだけではありません。一緒に食べた人についての大切な「思い出というスパイス」の効いた料理・味を探し出してくれる「探偵事務所」も…