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『ハリケーン』 - 豪雨・暴風・土砂災害・台風に翻弄される気象予報官

地球温暖化が進むなか、豪雨・竜巻・土砂崩れ・台風などで、大きな被害をこうむるケースが増加しています。地震や噴火などに伴う被害もまた、甚大なものに。大災害は、人々に恐怖をまき散らし、人的・物的な損害を与え続けています。自然そのものに原因があるため、いくら人智を集め、予防策を講じようとしても、自ずと限界はあります。それでも、知識と情報を駆使し、事前に対策を立てておくことが、被害を少なくすることにつながります。また、事が起こってからでも、どのように対応するかによって、被害の度合いも大きく変わります……。今回は、自然によって引き起こされる大災害に関する知識と情報を得るとともに、立ち向かい方を知るため、五つの作品を紹介したいと思います。

「大災害を扱った作品」の第一弾は、高嶋哲夫『ハリケーン』(幻冬舎、2018年)。ハリケーンというタイトルがついていても、それに関する叙述はごくわずか。でも、気象予報官・田久保優人の一家(妻の恵美、息子の剛志、義母の山村良枝)が抱える問題、予報官の仕事内容、気象予測の最前線、温暖化に伴う環境変化(線状降水帯、大型台風)、自然災害が頻発している現状、「真砂土」の危険性と関連して土砂災害を引き起こす地質の状況などが記述され、気づくことが多い作品です。

 

[おもしろさ] 「単なる傍観者から、当事者になった」

3年前、地元の広島で起きた土砂災害で両親を亡くした田久保優人。自分が育った家の跡地を見て、亡くなった両親のことに思い出し、被災者にとっても、あの災害は、3年前に起こった過去ではなく、いまも向き合っている現実であることに気づかされます。このとき、田久保は、その土砂災害を「初めて自分自身のこととして捉えた。自分たち気象庁の者はもっとできることがあったのではないか」と考えたのです。そして、「単なる傍観者から、当事者になった」のです。本書の核心部分は、そうした気象予報官・田久保の仕事に対する姿勢の変化にあるように思われます。

 

[あらすじ] 気象予報官の家族と仕事

田久保優人は、気象庁東京管区気象台、気象防災部予報課に勤める気象予報官。「気象衛星からの画像とコンピュータに保存された過去の膨大なデータとで気象を予測」するのが、彼の仕事です。妻の恵美は、大手広告代理店「サイバーアド」に勤務するディレクター。上司が犯したミスの責任を押し付けられ、会社にもう居場所がないと感じ始めていました。中学生である息子の剛志は、クラスでもトップクラスの優等生でした。それが、いまでは不良グループの一員として、万引きにも手を染めるようになっています。「何かがプツンと切れてしまった」というか、「何に対しても投げやり」になっていたのです。そんな一家は、認知症を患っている母・良枝の介護のため、母の実家がある多摩ニュータウンに転居することに。やがて、超大型台風が、関東を襲い、各地で土砂災害を引き起こし、多摩ニュータウンにも被害が及ぶことになります……。