経済小説イチケンブログ

経済小説案内人が切り開く経済小説の世界

『ヴルスト!ヴルスト!ヴルスト!』 -  ヴルスト(ソーセージ)作りの奥深い世界

「食べ物を扱った作品」の第二弾は、原宏一『ヴルスト!ヴルスト!ヴルスト!』(光文社文庫、2016年)です。還暦目前のオヤジと中途半端な生き方を変えようとする青年がヴルスト(ソーセージ)作りに精魂を傾ける姿を描いています。オヤジと青年、それぞれの成長物語でもあります。

 

 

[切り口] ヴルスト作りのむずかしさとおもしろさ

ヴルストの作り方や種類(ウインナー、フランクフルト、ボロニアソーセージ)、日本でのソーセージ作りの歴史など、ヴルストに関する情報がたくさん盛り込まれています。塩漬け肉を挽いて腸詰めして熱を入れるとヴルストができるのですが、商品化するには、肉の種類から塩の量、塩漬け期間、スパイスの種類や量、羊腸への詰め具合、燻す温度や時間など、細かいことにまでこだわり始めたらきりがありません。そうしたヴルスト作りのむずかしさと奥深さこそが、それにチャレンジすることのおもしろさにつながっていくのです。

 

[あらすじ] 「人生最後の挑戦」と「人生で最初の挑戦」

還暦目前の藤巻伸太郎(通称髭太郎)は、かなめ荘という名の、昭和の風情そのままのボロアパートでヴルスト作りに没頭していました。自分にしか作れない「本格派の特製ヴルスト」を作り上げ、専門店を開くことを目標にしています。いわば「人生最後の挑戦」なのです。期限は、アパートが取り壊される1年後。同じアパートの二階に、佐々木勇人19歳が引っ越してきます。いろいろなものから逃げ回ってきた、それまでの中途半端な生き方を改めようと、1年後の高等学校卒業程度認定試験高認)の合格をめざして受験勉強に励もうとします。こちらの方は「人生で最初の挑戦」かもしれません。しかし、騒音や燻製の煙に生活のペースを乱され、「もうソーセージ作りはやめてくれませんか」と憤ることになります。ところが、勇人は、土下座をして手伝ってほしいと頼まれたことをきっかけに、髭太郎の作業を手伝うことに。やがて、ヴルスト作りを通して、物事を自分なりに考えたり、まとめたりするやり方を学ぶとともに、勇人は、少しずつヴルスト作りの奥深さに引き込まれていきます。徐々に腰が据わり、人生の目的を見定めようとするように変わってくるのです。果たして、ヴルスト作りの結末は? 

 

[読みどころ] 本気で向き合いことで見えてくるものが! 

勇人は、なぜ、ヴルスト作りの奥深さに引き込まれていったのでしょうか? それは、逃げ回ることなく、真摯な気持ちで取り組み始めたからです。ヴルスト作りとの格闘を通して、物事の取り組み方、勉強の仕方、さらには生き方に至るまでをも併せて学んでいくことになります。

 

本日の一冊
ヴルスト!ヴルスト!ヴルスト! (光文社文庫)

ヴルスト!ヴルスト!ヴルスト! (光文社文庫)