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『リーダーになりたければ海に行け』 - 「居酒屋の大将」でもある「伝説のリーダー」

「チームリーダーを扱った作品」の第二弾は、中鉢慎『リーダーになりたければ海に行け』(つり人社、2014年)。幼稚園時代からおよそ「長」と付く役柄とは無縁の人生を送ってきた金田シンペイ(入社7年目の29歳)。社運を賭けたプロジェクトのリーダーに抜擢されます。勤務先は、湘南に本社を構える創業38年、社員500名弱の中堅部品メーカー・ステラ工業。シンペイは、居酒屋「自魚食堂 鬼侍」の大将であり、「伝説のリーダー」という異名を持つ、60歳代半ばのジュンジから、船釣りを通して、「リーダーの心得」を教わることになります。シンペイのリーダーとしての成長物語。

 

[おもしろさ] 「不恰好でリアルなリーダーシップ像」

「確固たる信念のもと力強くチームを引っ張るリーダーとそれを支える優秀なメンバーたち。全員で力を合わせて、幾多の壁を乗り越え、チームはハッピーエンドで終わる。ハッキリ言おう。そんなものはまやかしだ。すべてのリーダーが現場で悩み、這いつくばり、泣きながらもがいている。また、メンバーが従順についていく、というのも幻想だ。多くの場合、リーダーは疎まれ、遠ざけられ、石を投げられる。時にはチームはあっけなく崩壊する。リーダーの多くは身体と心の危ういバランスを取りながら、酒ビンを片手に壁に向かってブツブツと独り言を呟きながら、毎日を過ごしている」。著者の「あとがき」の言葉です。リーダーたるもの、なにをどのように考え、実行に移していけば良いのか? 本書のおもしろさは、「不恰好でリアルなリーダーシップ像」が描かれている点にあります。

 

[あらすじ] 船釣りを通して、「リーダーの心得」を

シンペイは、1カ月前に部長からのリーダー就任を引き受けた自分の愚かさを悔み続けていました。そもそも、今期も売上ノルマの半分も達成していません。「営業部の万年ベンチウォーマーである自分にはそんな大役務まるはずがない」「自分の能力は自分が一番知っている」。そう思い込んでいたのです。案の定、その後の進展は遅々たるものでした。「あのさぁ、ウチの会社、潰す気? プロジェクトが始まって1か月も経つのにまともに進捗してないよね。もしかして、やる気ないのかな? 君の能力がないのか、僕の指示が悪いのか、どっちなんだろ?」。「営業支援システム改革プロジェクト」の中間報告を読み上げているとき、社長が突然投げかけた言葉に、シンペイは頭が真っ白になります。しかし、ジュンジと出会い、アドバイスをもらい、実践していくなかで、プロジェクトを前進させていく手法を学んでいきます。