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『キッチンコロシアム』 - 料理をエンタテインメントとして初めて扱った! 

まだまだ暑さが残っているとはいえ、首都圏では、吹く風に秋の気配が強く感じられる今日このごろです。そして、秋と言えば、「食欲の秋」。おいしいものがいっぱい出回ります。そこで、今回は、料理・食を扱った作品を5つ紹介したいと思います。

「料理を扱った作品」の第一弾は、田中経一『キッチンコロシアム』(幻冬舎、2017年)。かつて一世を風靡したテレビ番組「料理の鉄人」をモデルにした「竈(かまど)の鉄人」を描いた作品です。作者は、同番組の演出者。しかも実名に近い名前の人物が登場しますので、臨場感満載の作品に仕上げられています。

 

[おもしろさ] 格闘技であるゆえに浮き彫りにできた料理人の心中

それまで、テレビの料理番組といえば、もっぱら簡素で実質的なキッチンセットで行われる主婦向けのものでした。ところが、「竈の鉄人」は、料理格闘技場「キッチンコロシアム」と名づけられた豪華なキッチンが舞台。プロの料理人を招き、真剣勝負をさせる、料理をエンタテインメントとして初めて扱った番組となりました。本書の魅力は、多くの視聴者の目前で展開される真剣勝負という形で進行されるがゆえに浮き彫りにできた料理人の醍醐味・楽しみを描き出している点です。食べ物が審査員の舌に乗った瞬間、「旨い」と言葉にする直前に浮かべる「恍惚」とした表情、その瞬間の心の揺さぶりを感じるときに見出せるという料理人の快感。「自分に酔える料理」を求め、さらにすべての料理で「新しい技を披露」することに磨きをかけ続けるという料理人の執念。「一品一品をコツコツと作り上げていく」なかで熟成されていく料理人の熱情。「あれもやりたい。これも増やしたい」というように、料理の度量を拡張していくという料理人の心意気……。

 

[あらすじ] 「和の鉄人」 VS 「料理オタクのホームレス」

東西テレビの人気バラエティ番組となり、異例の高視聴率を叩き出しているのは、料理の異種格闘技番組である「竈の鉄人」。毎回、挑戦者が現れ、和の道場六三朗、フレンチの坂井博行、中華の陳健一といった、三人の鉄人のうち、一人を指名する。挑戦者と指名された鉄人は、テーマ食材を使い、1時間の調理時間内にコース料理を作り上げる。それを4人の審査員が試食して、軍配を上げる。そうした鉄人と挑戦者のガチンコ対決を演出し、人気番組に仕立てあげたのが、料理には門外漢であった、演出担当の田中圭一でした。道場にとって14連勝がかかった回の挑戦者となったのは、フランスの名門レストランで腕を磨き、日本に凱旋していた31歳の女性シェフ・河田千春。魯山人の流れを汲む、道場と河田の間には、深くて複雑な過去の因縁が隠されていました。クライマックスは、「料理オタクのホームレス」になっていた、千春の弟・房之助と道場との息詰まる格闘技。物語は、そこに至るまでの過程をノンストップで駆け抜けていきます。

 

キッチンコロシアム

キッチンコロシアム