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『鴨川食堂』 - 探します! 「思い出というスパイス」付きの料理と味を

「料理を扱った作品」の第二弾は、柏井壽『鴨川食堂』(小学館、2013年)です。京都にある鴨川食堂は、おいしい料理を出すだけではありません。一緒に食べた人についての大切な「思い出というスパイス」の効いた料理・味を探し出してくれる「探偵事務所」も併設しています。『鴨川食堂』は、続編として『鴨川食堂おかわり』(2014年)、『鴨川食堂いつもの』(2016年)、『鴨川食堂おまかせ』(2017年)、『鴨川食堂はんなり』(2018年)が刊行されています。また、シリーズ第1作と第2作を原作として、2016年にNHK-BSプレミアム『鴨川食堂』が放映されています。忽那汐里さん、萩原健一さん、岩下志麻さんなどが出演されました。

 

[おもしろさ] 懐かしい料理は、食べた時の情景を一緒に運んでくる

何年も前に食べた懐かしい料理・味を思い出すとき、人は皆、料理それ自体だけではなく、一緒に食べた人やその時の情景・言葉を思い出すことになります。本書の特色は、「思い出というスパイス」でうまさを引き立てた料理・味にまつわる「ちょっといい話」の数々が登場すること。一例をあげてみましょう。「仕事が終わって家に帰る。着替えるのも面倒くさい。上着を脱いでネクタイだけ緩めて、ちゃぶ台に座る。新聞広げて、テレビ点けて、と台所のほうから出汁のええ匂いがして来る」。「早よ食べてえな。うどんが伸びるやんか」。情景の中で浮かび上がる料理への思い。そこには、亡き妻への哀惜の念が込められているのです。

 

[あらすじ] 「鴨川食堂・鴨川探偵事務所-食捜します」

京都は東本願寺の近くにある鴨川食堂。一風変わった食堂です。看板なしで、メニュもありません。初めてのお客には、「おまかせの定食」を食べてもらうのがルール。気に入ったら次回はお好みの料理を作ってくれるのです。しかも、その食堂は、思い出の「味・食」を探してくれる「探偵事務所」を併設しています。事務所の所長は、鴨川こいし。実際に探す役は、父親の鴨川流が担当します。顧客に探偵事務所の存在を知らせる手段は、料理雑誌『料理春秋』に掲載された一行広告「鴨川食堂・鴨川探偵事務所-食捜します」という文言のみ。連絡先もなく、編集部に問い合わせても、詳しく教えてもらえません。それでも、ご縁のある人は、探し出して、依頼をしにくるのです。第一話では、15年前に亡くなった妻が作ってくれた「鍋焼きうどん」と同じものをもう一度食べ、再婚に向けての踏ん切りをつけたいと願う男性が登場。流は、買い物をした場所、購入した食材、食材の込み合わせなどを丹念に調べ上げたうえで、鍋焼きうどんを再現します。ほかにも、55年前に食べたビーフシチュー、やはり50年ほど前の鯖寿司、20年前のとんかつ、5歳のころに食したナポリタン、28年前の肉じゃがにまつわる5つの話が登場します。

 

鴨川食堂 (小学館文庫)

鴨川食堂 (小学館文庫)

 
鴨川食堂おかわり (小学館文庫)

鴨川食堂おかわり (小学館文庫)

 
鴨川食堂いつもの (小学館文庫)

鴨川食堂いつもの (小学館文庫)

 
鴨川食堂おまかせ (小学館文庫)

鴨川食堂おまかせ (小学館文庫)

 
鴨川食堂はんなり (小学館文庫)

鴨川食堂はんなり (小学館文庫)