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『かすがい食堂』 - 駄菓子屋から始まり、子ども食堂につながっていく

「食堂を扱った作品」の第三弾は、「子ども食堂」の発足につながる試みを描いた伽古屋圭市『かすがい食堂』(小学館文庫、2021年)。東京・下町の「駄菓子屋かすがい」を受け継いだ春日井楓子は、拒食症をはじめ、さまざまなトラブルを抱える子どもたちのために店で食事を提供。一週間に二回、にぎやかな食卓が居場所を失った子どもたちを勇気づけることに。子どもたちと向き合い、居場所を求めてさまよっている子どもたちに手を差し伸べる「かすがい食堂」という、知に足のついた仕事が好きになっていく楓子の変化にも注目! 「かすがい食堂」シリーズの第1作目。

 

[おもしろさ] 食材の買い物や料理に子どもを巻き込んでいく

お節介の血がうずうずするのか、困っている子どもに出会うと、なんとか力になれないかと考えてしまう楓子。本書のおもしろさは、ひとりの子供に食事を出したことを契機に、食事を提供する子どもたちの数が少しずつ増え、さらには彼らにも買い物や料理を「分担」してもらうことでユニークな「子ども食堂=かすがい食堂」としての発展を予感させてくれるプロセスをフォローできることです。大人から見ると、子どもの行動には、意味がないことへのこだわりや変なものへの執着と写るかもしれませんが、「その子のなかではちゃんと意味がある」というフレーズ。また、「世の中は敵でもない。困ったときに手を差し伸べてくれる人は必ずいる。けれどやっぱり親ではないから、巣に籠っていて鳴いていても餌を運んできてはくれやしない。自分から求め、行動しなければ、善意には辿り着けない」というフレーズ。心に深く刻印されたかの如く、印象に残ります! 

 

[あらすじ] 第一歩で感じた徒労感と無力感! 

楓子(25歳)の祖母・春日井朝日(80歳)が60年も前に始めた「駄菓子屋かすがい」。いまでもそれなりに繁盛しています。3年間働いた映像制作会社を辞め、お店を継いで1ケ月が経過。おばちゃんと呼ばれることにも慣れ、子どもたちのあしらい方もだいぶんつかめてきているように実感する毎日。毎回300円を持って、晩ごはん代わりにお菓子を買いに来る小学四年生(9歳)の男の子・翔琉くんに出会った楓子は、店の奥にある四畳半の座敷を活用し、なんとか慣れない料理を提供することに。ところが、食べたハンバーグに対する翔琉くんの反応はイマイチでした。「どう、おいしい?」「べつに」。「ハンバーグはあまり好きじゃなかった」「べつに」……。彼の食事は気になるところだらけでした。まず、「いただきます」がない。箸の持ち方が握り箸。同じおかずばかり食べる。そして、とてもつまらなそうに食べる。「ごちそうさま」もない。礼を言わない…。楓子は、「ただただ徒労感と無力感を持て余していた」のです。しかも後日、翔琉くんの母親が怒りの抗議を行うため店にやってきて、いったい「なんの権利があって、求めていない食事を勝手に提供したのか」と告げる始末……。でも、こうして、子ども食堂への道のりの第一歩は、確実に踏み出されたのです。