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『スクープのたまご』 - 苦悩と悩みと不安のなかでも羽ばたける

「記者を扱った作品」の第三弾は、大崎梢『スクープのたまご』(文藝春秋、2016年)。大手出版社の千石社に入社して2年目の信田日向子。発行部数60万部という日本を代表するトップクラスの週刊誌『週刊千石』編集部に異動となり、記者として活動する彼女の苦悩・悩み・不安と、一人前の記者として成長していく過程が描かれています。

 

[おもしろさ] 「あなたは恥ずかしくないんですか」

『週刊千石』の発売日は毎週木曜日。その日には、新聞広告が必ず載り、電車には中刷り広告がぶら下がります。中身は、政財界を揺るがすスクープ記事から芸能人のゴシップネタまで多種多様。「過激な煽り文句や隠し撮りの写真が堂々と掲載されるので、物議を醸すのも日常茶飯事だ。すっぱぬかれて立場を失い、転落の憂き目に遭った人は数知れず。でまかせだ、ねつ造だ、名誉棄損だと、裁判沙汰にもつれ込むケースも珍しくない」。そうした週刊誌に対する日向子の感想は、「朝昼のワイドショーよりえげつない」「暴かれたことで傷つく人がいるのは気の毒以外の何ものでもない」「良心はないのか。品格はないのか」というもの。実際に記者として取材をするなかで、他人の不幸に群がり、悪いところを書き立て、さらには突き付けられる「あなたは恥ずかしくないんですか」という、厳しい問いかけに悩みます。そして、傷口に塩を塗るようなまねもせざるを得ないことにも苦悩するのです。では、そうした苦悩・悩みをどのように克服していくのでしょうか? 

 

[あらすじ] 週刊誌は、空振りや無駄足の積み重ねでできている

長いこと憧れていた千石社に入社した信田日向子。前任者の桑原が精神的に参ってしまったことで、自分自身が「千石社で唯一の難点」と考えていた『週刊千石』編集部に記者として配属されます。背が低く、メガネで、癖毛で、さえない顔立ち、運動音痴。自信のなさのオンパレードと自認していた彼女の異動には、無謀だと疑問視する声も。が、「やらせてみないとわからないから、とりあえずやらせてみる」という考えのもと、異動が実現したのです。「成果があってもなくても、とことん調べることに意味がある。週刊誌は、空振りや無駄足の積み重ねでできている。そこをおろそかにしたらおしまいだから」。当初は嫌々で、おどおどしながらの取材。やがて試練を乗り越えて、日向子は、常に考え整理する、一人前の週刊誌記者に成長していきます。

 

スクープのたまご (文春文庫)

スクープのたまご (文春文庫)

  • 作者:大崎 梢
  • 発売日: 2018/09/04
  • メディア: 文庫