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『ミッドナイト・ジャーナル』 - 新聞記者の誇りとは? 

新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言を受けて、「ステイ・ホーム」を実践中です。気になるのは、テレビ、新聞、ネットなどから伝えられる最新情報。それぞれの媒体には、それぞれの固有の良さがあります。なかでも、少し時間をかけてチェックするのは、読み返すことができるうえに、情報の発信者が明確になっている新聞です。いまや、記事のほとんどが「署名記事」です。そのため、記者の皆さんの熱意や努力に思いを馳せながら情報と接することができるのです。記者の皆さんは、いったいどのようなことを考えながら、取材を行い、記事にしていくのでしょうか? そうした点を明らかにするため、新聞記者と週刊誌記者の仕事に肉薄した作品を四回に分けて紹介していきます。

「記者を扱った作品」の第一弾は、本城雅人『ミッドナイト・ジャーナル』(講談社、2016年)です。全国紙の社会部記者が連続女児誘拐殺害事件の真相を解明していく道のりが描かれています。「テレビでジャーナリストって名がつく人間が、たいした取材もせずに偉そうなことを語っている」という風潮もあるなかで、真実の解明に骨身を削り、労苦を惜しまない記者魂・記者の誇りをこれほどまでに読み取れる作品には、未だ出会えておりません。「現場に出向いて、自分の目と耳で確認する記者がいなければ、間違った情報も拡散されていきます」。2018年3月30日にテレビ東京で放映された春の開局記念ドラマ『ミッドナイト・ジャーナル 消えた誘拐犯を追え! 七年目の真実』の原作本。主演は竹野内豊さん。マドンナ役に上戸彩さんが出演しました。

 

[おもしろさ] 「時間をかけず」しかも「正確に」! 

メインのおもしろさは、殺害事件の真相を解明していくプロセス自体。さらに、もうひとつあります。それは、記者という仕事のエッセンスが凝縮して示されている点にほかなりません。「取材とは、タネを撒くところから始まる。タネを撒き、何度も通って挨拶をし、雑談して苗を育てていくことで、ようやくネタになる」。「真実の多くが、誰かの都合によって隠され、捻じ曲げられている。それらを一枚ずつ引っペがして真実まで辿り着く。そしてそれらを検証して、自分の言葉で記事にするのが俺たちの仕事」。「時間をかけて、相手の懐に深く入り込んで、すべてを聞き出すことも大事だけど、俺たちには締め切りがあって、毎日の紙面を作らなければいけない。きょうはネタがありませんと言って白紙の新聞を出すわけにはいかないからな。〈時間をかけず〉かつ〈正確に〉と相反する要素が求められる」。

 

[あらすじ] 「仮説」を信じて、粘り強く地道な取材を

全国紙第3位の中央新聞社のエース記者であった関口豪太郎。連続女児誘拐殺人事件を追うなかで、誘拐された女児が生きていたにもかかわらず、遺体が発見されたと報道。誤報の責任を取らされ、さいたま支局の県警(担当)キャップに左遷されます。そして7年後。新たに起こった女児誘拐殺人事件の犯人は、以前の事件で死刑になった犯人の共犯者ではないかと考えた豪太郎。ただ、その事件は単独犯、しかも死刑は執行ずみ。いまさら、二人組による犯行だったことが分かれば、警視庁の威厳に関わる大失態ということに。周囲は、豪太郎の見方に懐疑的です。しかし、彼自身は元部下の藤瀬郁美の助けを借りながら粘り強く地道な取材を重ねていきます。

 

ミッドナイト・ジャーナル (講談社文庫)

ミッドナイト・ジャーナル (講談社文庫)

  • 作者:本城 雅人
  • 発売日: 2017/12/15
  • メディア: 文庫