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『プリティが多すぎる』 - ファッション誌編集者のリアル

「編集者を扱った作品」の第四弾は、少女向けファッション誌の編集者を素材にした大崎梢『プリティが多すぎる』(文藝春秋、2012年)。対象年齢はずばり「女子中学生」というファッション誌『ピピン』に異動となった新米編集者・新見佳孝。最初は「驚きと疑問と違和感と戸惑い」の連続。が、少しずつ『ピピン』の存在意義、ユニークなその運営システムなどを理解し、「ピピモ」と呼ばれる専属契約を結んだ「少女モデル」たちとの交流を通し、一人前の編集者として成長していきます。2018年に日本テレビ系でテレビドラマ化されました。主演は千葉雄大さん。

 

[おもしろさ] 本気で取り組んでこそ、見えてくるものが

ファッション誌の編集者の業務は、「企画を考え、モデルを決めて、写真を選んで、レイアウトを完成させる。モデルやカメラマンを集めて配置し、トータル的なプロデュースをする」ことにあります。本書の魅力は、そうした一連の業務を行っていくうえで、なにをどのようにしていけば良いのか、そのポイントを明らかにしていることにあります。また、どの仕事にも当てはまることとはいえ、この世界にあっても、「なんでも本気で取り組んでこそ、見えてくるものがある。そこにいる人たちの気持ちや、顔のひとつひとつ。見えて初めて作り出せる」。大事な点はそこにあると、語られているのが印象に残ります。

 

[あらすじ] 最初は「驚きと疑問と違和感と戸惑い」の連続

大手出版社「千石社」にあって、日本を代表する時事ネタ満載の週刊誌と称されている『週刊千石』の編集部で2年間過ごした新見佳孝。それは、社会を揺るがす凶悪事件から政財界の動き、国際的スクープ、芸能人スキャンダル、ゴシップ、三面記事など、ありとあらゆる最新情報を鋭く切り取って世の中に問題提起している週刊誌でした。しかし、4月1日の配置転換で、新たに告げられた配属先は、「ピピン編集部」。同じ社でありながら、月刊誌『ピピン』を発行していることなど、まったく知らなかったのです。しかも、正社員は、40歳代の男性編集長の三田村と佳孝のみで、ほかの編集者もすべて契約社員であることにも驚かされます。誌面をにぎわせている「チープで派手な小物や洋服」にも興味が持てません。ピピモたちとの初顔合わせ。「明るくて一生懸命な、かわいい子ばかりなのよ。いいお兄さんになってあげてね」と言われるものの、「企画も趣味もセンスも好みもすべて合わないここで、いったい何をやれというのだ」と自問自答してしまう佳孝でした。が、実は『ピピン』はローティーン向けファッション雑誌5誌のうち、売上高はトップの座を占め、ダントツの人気を得ているのです。なぜそうなのか? 善孝は、ピピモたちによって支えられている『ピピン』の独特なシステム、ピピモたちの人気ランキングなど、人気の「秘密」にも目を向けるようになっていきます。