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『大脱走』 - ブラック企業にやってきた「とんでもない新人」

ブラック企業を扱った作品」の第二弾は、荒木源『大脱走』(小学館、2015年)。ブラック企業の実態、そこに就職したやる気のない「とんでもない新入社員・俵真之介」の行動、そんな後輩社員といかに接すればよいのかで悩んでしまう女性社員・片桐いずみの苦悩が描かれています。

 

[おもしろさ] 嫌なことにはぶつからず、逃げてしまう

「いったいどうすればこいつはやる気になるんだろう」。生きていれば、大変なこと、嫌なことにぶつかるものだが、彼の場合はぶつかりません。逃げてしまうからです。「そこまでしたくない」「めんどくさい」。そんな後輩社員をどのように育て上げるのか? 片桐いずみの悩みは尽きません。

 

[あらすじ] 「なんとか続けている」「無関心でいる」「辞める」

昭和64年生まれの片桐いずみ。知らずに入ったブラック・リフォーム会社「スペシャル・ライフ」でなんとかやっています。特定地域の住宅地図のコピーを手にして、片っ端からドアをたたいていく。家の人と話をして屋根の上に登り、「屋根が傷んでいますね」「ヒビが入っていますね」という口上でリフォームの契約を取る。それが同社のやり方。ただ、片桐は、3年たっても、客をだまして必要のないリフォームを勧める気にはなれないでいます。そんな彼女の部下として、「とんでもない新人」がやってきます。初日から大遅刻での入社となった彼の名前は、俵真之介。同期入社のもう一人は、江畑花子。俵はと言うと、すぐに疲れるし、それを隠さない。飛び込み営業を愚痴る。トークを棒読みする。客の反応が悪くなると、「そうですか」と撤退する。シフト通りに休みを取る。サボリをやめようとしない……。江畑の方はアポを順調にとっていったのに対し、俵は一向にアポが取れない。彼の場合、およそ向上心というものはなく、「欲」もないのです。江畑は辞めてしまいます、俵の方は辞めません。片桐いずみの会社ライフは、いったいどのようになっていくのでしょうか? 「なんとか続けている」「無関心でいる」「辞めてしまう」というブラック企業との距離感の三つの有り様が浮き彫りにされています。