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『小説版 ホテルコンシェルジュ』 - 「おもてなし」の最前線

旅先のホテルで、なにか困ったことが起こり、だれかに聞いてみたいと思ったことはありませんか? そんなとき、適切なアドバイスやサポートをしてくれるのが、コンシェルジュです。彼らが詰めているデスクは、「総合案内所」であり、「なんでも相談所」でもあります。では、コンシェルジュのもとに持ち込まれるリクエストやトラブルって、どのようなものなのでしょうか? 今回は、ホテルにおける「おもてなし」の最前線とも言うべきコンシェルジュを扱った作品を二つ紹介します。

「ホテルコンシェルジュを扱った作品」の第一弾は、著者モラル、脚本 松田裕子の『小説版 ホテルコンシェルジュ』(上下巻、小学館文庫、2015年)です。舞台は、外資系一流ホテル「ホテルフォルモント」。新米コンシェルジュの天野塔子は、「お客様にノーと言わない」がモットーの体育会系女子。彼女の活躍を通して、コンシェルジュの仕事ぶりを満喫できる作品です。ホテルが抱えているさまざまな課題にも気づかされることでしょう。2015年7月期にTBS系で放映されたドラマ『ホテルコンシェルジュ』(主演は西内まりやさん、出演は三浦翔平さん、高橋克典さんほか)の原作。

 

[おもしろさ] コンシェルジュに必要な要件

お客様のどんなリクエストにも対応してくれるのが、コンシェルジュ。とはいえ、すべてのことにきちんと応えられるわけではありません。また、応えようとすると、実にやっかいな調整が必要になる場合も少なくありません。では、ほぼ対応できそうにもないようなリクエストに対し、コンシェルジュはどのようにして受け止めていくのでしょうか? この本のおもしろさは、まさにそのことを順次明らかにしてくれる点にほかなりません。そして、「人をおしゃべりにする才能」「お客様に寄り添おうとしている気持ち」といったコンシェルジュに必要な要件についても指摘されています。「私どもは、お客様の力になりたいと思っております。ですから、一緒にどうしたらいいか、考えさせて頂けませんか?」。

 

[あらすじ] 体育会系女子の頑張りとチームワークで

ホテルフォルモントのレストランで働いていた天野塔子。総支配人の鷲尾陵介に抜擢されたばかりの新人コンシェルジュです。ロビーの一角に設置されたデスク。そこには、道案内からいろいろな相談まで、多いときで一日200件に近い問い合わせやリクエストが届けられます。持っているはずのモノが見つからないという客の相談から始まって、パーティーの打ち合わせ、「理不尽な」苦情ばかり言ってくるクレーマーへの対応など……、泉の如く湧き上がってくるリクエストに翻弄されます。どんなリクエストにも応えたいと思うがゆえに、客の要望に勝手にOKを出してしまいがちです。したがって、要望を実現させることのむずかしさに「ふがいなさ」を感じる毎日を送っています。それでも、先輩格のコンシェルジュ本城和馬以外にも、一流旅館で鍛えた接客術を持ち合わせたヘッド・コンシェルジュの珠久里太一、鷲尾総支配人、同期入社のドアマン・牧原豪太やベルボーイ・二階堂塁といった上司・同僚のサポート・チ-ムワークもあって、なんとか体育会系女子の頑張りで乗り切っています。しかし、数字至上主義者の経営戦略室ゼネラルマネージャー・片桐美穂子にとっては、塔子は嫌悪感の対象でしかありません。