経済小説イチケンブログ

経済小説案内人が切り開く経済小説の世界

『ラストチャンス 参謀のホテル』 - 危機に瀕した名門ホテルの再生物語

「ホテルを扱った作品」の第二弾は、江上剛『ラストチャンス 参謀のホテル』(講談社文庫、2020年)。崖っぷちのホテルの再生を描いた作品。崩壊寸前の飲食フランチャイズ企業の再建を描写した『ラストチャンス 再生請負人』の続編。元エリート銀行員で、数々の企業を再建させた実績を有する樫村徹夫が本書で挑むのは、老舗の名門「大和ホテル」の立て直しです。ホテル業界が直面する今日的課題のもと、ホテル経営に必要な条件や考え方が示されています。

 

[おもしろさ] やり方は、いたってシンプル! 

経営が傾いているホテルは、いかなる状況にあるのか? それを立て直すには、なにをどのように考え、実行していけば良いのか? また、そうした再生の動きを阻む動きに対しどのように対処していけば良いのか? うーん、なるほど、こうすれば……。「再生請負人」と呼ばれた男・樫村徹夫のやり方は、いたってシンプル。リストラを行ったり、ノルマを増やしたりして経費を圧縮するという方法とは真逆のものです。自分のオフィスに従業員たちを呼んで意見を聞くのではなく、彼らが働いている現場に自ら赴き、本音の意見をすくいあげる。問題点を発見すると、直ちにそれらの改善を施す。改善するときには、担当者に思い切って権限を委譲する。そうした地道な努力の積み重ねこそが、企業再生の本筋であることが示されています。いずれも、ホテル業界にとどまらず、どの業界の再生にも参考にできるコンテンツになっています。

 

[あらすじ] 謎のフィクサーと再生請負人と融通の利かない社長

2021年、樫村徹夫は、表舞台から姿を消した政財界のフィクサー・金杉芳雄から、老舗の大和ホテル立て直しを依頼されます。同ホテルは、東京の「三大名門ホテル」の一角を占めるものの、いまや大きく低迷。総支配人(GM)として着任した樫村が対峙したのは、金杉に恨みを抱く創業家の社長・木佐貫華子と、彼女の右腕で、前GM渡良瀬聡。あろうことか、樫村の銀行時代の同期で、親交のある経営コンサルタント宮内亮と連携しながら、樫村の敵対勢力となります。彼らの考えは、中国の巨大な格安ホテルチェーンの傘下に入り、崩壊寸前のホテルの再生を図るというもの。他方、樫村の方は、銀行員時代の後輩で、現在はホテル投資を専門にする外資系不動産投資会社に勤務する沢秀彦の助けを借りながら、従業員のモチベーションを向上させるという地道な再建の努力を積み上げていくというもの。が、事態は思わぬ方向に進んでいくことに。

 

ラストチャンス 参謀のホテル (講談社文庫)

ラストチャンス 参謀のホテル (講談社文庫)